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先生が、家族旅を「学び」に昇華してくれた話/おやこで通う小学校㉚

無計画にもほどがあった福岡旅行。
それは、単に“楽しい家族旅行”で終わらなかった。

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珍獣・兄は今年に入ってから、週2−3日のペースで登校している。登校先は4月からずっと、特別支援学級だ。
彼の要請により、わたしが1日中同伴する、いわゆる母子登校のスタイルで入学式からやってきたけれど
11月半ば以降、1時間目の終わりに教室まで送れば、後は下校まで1人で学校に滞在できるようになった。

少人数の、アットホームなクラス編成で
一斉授業ではなく、双方向型といえる形式の授業を基本とし、それぞれの学びのペースやその時々の気持ちにできるだけ配慮してくれて
授業によっては、異学年が混ざり合って学ぶ。
そんな、支援級ならではのありがたい環境に加えて
先生たちが、時間割を始めとする諸々の制約の範囲内で最大限、珍獣の意志=「好き・やりたい/苦手・怖い」を尊重してくれる。
珍獣自身の努力ももちろんあると思うけれど、そうやって先生たちが珍獣の心に寄り添ってくれたおかげで、わたしは母子登校を卒業できたのだった。

ホームスクールの日々を、先生と共有

先生とは、わたしの卒業(笑)後も、送り迎えの時に直接お話ししているほか
連絡帳を通じても、まめにコミュニケーションを取らせてもらっている。
「毎日行くのは疲れる」という主張から、珍獣は登校を「週2ー3日」と今のところ決めているのだけど

自分でお昼ごはんの米を炊き、卵焼きを作ったこととか
アイロン台(←アイロンビーズの制作ブースと化している)の前でひたすらビーズを並べ、立体に組み立て続けていたこととか
うまく出来なくて喚き散らし、わたしに八つ当たりしまくることとか
わたしもやり返す結果、言い過ぎて泣かせてしまい反省していることとか(*´人`*) ゴメーン

こちらはあれやこれやと、連絡帳に書き込む。
反対に登校した日は、先生が珍獣の学校での様子を教えてくれる。

そんな風に交換日記みたいなノリで、連絡帳を楽しみにしていたある日。
福岡から帰宅して初の登校日だった、その日の一文に
わたしは大げさでなく目を見張った。

「旅行のことを、代筆で作文にしました」

脳にも個性。読み書きが苦手

珍獣は、読み書きが苦手だ。
文字を読むのが本当に苦痛らしく、一応一通り覚えているひらがなの読みは、一文字ずつたどるように読んでいく。
こちらが、珍獣の好きなもので音読へ誘導しようとすると、「疲れる」と猛烈に嫌がる。
小さい頃から絵本が好きで、1人で読んでいる時間も多いけれど
それは絵でストーリーを追っているのだ、と昨年気づいた。

脳も人それぞれ個性があり、事象の認知の仕方にパターンがあるという。
それが珍獣の場合、言語ではなく、視覚的に認知するという特性を持つらしい。
だから立体アイロンビーズとか、目で捉えたモノを再現する形でのものづくりが好きなのだろう。
とはいえ、義務教育で習得を促される学習内容は、言語を足がかりとするものがほとんどだ。
文字でも何でも、世間の基準ではなく珍獣のペースで習得していけばいいので、読み書きができるよう急かす考えは微塵もなかったけれど
これが苦手となると、なかなかきつい思いをするだろうな…とは予想していた。
焦りはないものの、勝手に同情するような気持ち。

珍獣の認知特性だけでなく、そんなわたしの複雑な胸中まで、先生は見通してくれていたのかもしれない。
まさかの手段「代筆」によって、「作文」という読み書きの次なるステージに、鮮やかに珍獣をいざなってくれたのだった。

ひこうきにのって、しばらくするとみみがいたくなったから、お水をのんだよ。
フェリーにのっておおしまにいったよ。
フェリーのいすでねてたら、ゆれすぎて、イスからおちたよ。きもちわるくなったよ。
フェリーよりひこうきがすきだな。
こんどはヘリコプターにのりたいな。
またかぞくみんなでいくよ。

本人がやる気を出したので、作文は「パート3」まで計3枚になった。
本人の承諾が得られないため、ここですべて紹介することはできないけれど
先生の聞き取りに対して、次から次に言葉があふれてきた様子だ。

先生に、体験やそれを通じて感じたことを、自分の言葉で伝えられたこと。
代筆とはいえ、「作文」に初めて挑戦したこと。
それらが、珍獣の自信になったのは間違いない。
同時に、彼がどんな視点と感性で旅行での出来事を捉えているのか、作文には鮮明に表れていた。
家族であるわたしには、とても引き出せない内容だった。

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先生のおかげで、福岡旅行は単なる家族の思い出にとどまらず
見事に学習へと昇華した。
わたしにはそんな発想もなかったし、もちろん実践するスキルもない。
先生という心強い仲間と一緒に、子どもの育ちを見守ることができる環境にいられて、改めて幸せな気持ちになった。

福岡旅行を実行できて、本当によかった。
無計画にもほどがあったけど。

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