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ゼロからの命のいただき方|日本人は、どんな肉を喰ってきたのか? |Review

『日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』
田中康弘著、枻出版社、2014年
レビュー2019.01.20/書籍★★★★☆

慶良間諸島で外来のイノシシが繁殖して困っているらしい。渡嘉敷村ではこの数年で700頭以上も駆除しているそうだが、ぜんぜん追いつかずに、あいつら泳ぐの達者だから他の島にも上陸して、さらに被害が広がっている。ウミガメの卵も食べられているみたい・・・ こりゃ駆除を手伝わないとなあ、でも狩猟免許ってどうやってとるの、なんて思い始めたときにみつけた本がこれ。

著者の田中康弘さん(田中康夫じゃないよ、なんとなく)にはマタギの生活に参与観察してきた経歴がある。『ゴールデンカムイ』の人気キャラ、谷垣ニシパ(シは小さい字です!)の出身地である秋田県の阿仁マタギのことで、マタギ界では超有名どころ。マタギとは東北地方とかで主に狩猟により生計を立ててきた人たちで、柳田國男が彼らの存在も念頭において山人論を構想したことでも知られる。山中ではマタギ言葉という特別な言葉というか表現や語法で話すそう。マルチスピーシーズ人類学でも注目されてるよね。

西表島のカマイ(猪)猟の箇所でリマインドしたい点のみ以下にピックアップしよう。ちなみに西表にいるのはリュウキュウイノシシという小型タイプで(ベルクマンの法則ってやつだね)、沖縄島ではヤマシシって呼ぶ地域が多い。

  • 西表ではカマイの口をしばるのは針金。足をしばるのは農業用ビニールテープ。前足は片方だけだが、このほうが担いで運びやすいからだそうだ。

  • その場で締めずに生きたまま運ぶのがよそと違うらしい。サイズが小さいから運べる、冬でも暖かい日だと腐るというのが理由だと私は推理した。

  • 今はバーナーで毛を焼き切るが、昔はカヤなどに火をつけて焼いていた。そのにおいが村に広がっていくとカマイが獲れたとわかったという話は、コミュニティ論やスメルスケープ論として興味深い。

  • 「まず頭を外す解体は珍しい」とあるが、これは魚の解体のアレンジなのでは?と思った。頭だけを調理するまたは供物にするのに都合いいからってのもあるのかも。また、「背割りは珍しい」とも書いてあるが、これもよく切れない包丁のときは魚を背中からおろすこと、ありますよね。

  • 西表ではカマイをタタキや刺身で食す。豚肉と同様の寄生虫やウィルスに感染するリスクがあるのに、と著者はビビりながら食べる。でも西表の民はこれで何百年も生をつないできているので大丈夫なんでしょうね。昔カマイを食べた私もいま無事に生きています。

  • ドングリを食べたカマイはおいしいそうだ。「ジーマミカマイ」と呼んだとあるが、ジーマミーは落花生のことだと理解している頭は、一瞬なぜ?と思った。森にウラジロガシやイタジイが生えているからドングリは豊富にあるはずだね。

◆最後に一言
漫画の『山賊ダイアリー』が好きな人はハマるかも。ただし、解体シーンはよりリアルだ。この本ではイノシシ、シカ、ハクビシン、アナグマ、トドが紹介されているが、ハクビシンの肉がクセがなく牛肉に似ているそうだ。意外だ。かわいいのにみかけによらないものね。

(c) 岡本健太郎/講談社

(過去サイトから転居してきた文章をベースに書いてます。)

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