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リアルと幻想の狭間から、切り取られたワンシーン。
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記事一覧

【詩】雫

ハートウォーミングなテレビ番組 愉快なシーンで声を上げて笑い 心揺さぶられるシーンで感涙にむせぶ それは無意識にしていたこと ドアを開けた別室の君を 気にもせずに 君は微笑みながら言う 「笑ったり泣いたりできる 素敵な番組に出会えてよかったね」 心が温かくなる 同時に気づかされる 君の存在を意識せずにいたことに それは10歳になるかならないかの頃 アニメ番組のストーリーに心打たれ 涙を流しながら噛み締める余韻 そんな私を見て母は嗤った 「なんね、あんた泣きよっとね」と 子

【詩】迷宮

松明の灯りを掲げながら歩く暗い通路 響く自身の足音が不安を掻き立てる 自分は何者なのか どこへ向かって進むべきなのか 十字路で迷って立ち止まり 採るべき選択肢に悩む 地図を見ながら確認する現在位置 進む先は行き止まりで引き返さざるを得ない 何でもできそうな気がしていたのに 今は何もできないかもしれないとさえ思う 蝕まれて行く自己肯定感 自信も右肩下がりだ 階段を下りたところにある小さな部屋 閉ざされた扉と古の文字が記された石板 自分はどう生きたいのか 本当に失い

【詩】コインの裏

家へと向かう夕暮れの小道 ちょっとした段差に気づかないまま 足を引っかけて前のめり 投げ出された体は 膝を打ちつけ手の平で止められず 頭から突っ込み頬を打って倒れた 猛獣の牙に咬まれたような激痛に 膝を抱えてしゃがみ込む 頬も痛いがとにかく膝が痛い 溢れ出す血で服が赤く滲むのを眺めながら どうするべきか考える 助けを呼ぶべきか? しかし…… この場所の地理には明るくない 助けを求めたとして ここがどこかを説明できる自信がない 痛みで頭が回らない 地図を開くということを思い

【詩】星霜

階段を上がり切ると そこは遺跡の出口だった 試練を乗り越えてもたらされたものは 開けた視界と夜空に煌めく星々 振り返れば全てが繋がっていた まるで神託のように 起こる出来事に隠された道標 進むための決断をしたのは自分だけれど 今、君はどうしているだろう この空の下のどこかで生きる君に 恥じない自分でありたいと続ける修行の日々 いつか胸を張って再び君の前に立つために 君に会いたい 星霜を経て再会を果たし 生き抜いて来たことを称え合いたい 互いに年を取ったことを笑い合いなが

【詩】岐路

「さよなら」は言いたくないんだ 言わずにいれば 糸は切れないまま 関係は続いていると思える 違う道を行こうとする君を 引き止めることはできない 全ては一期一会だ その背を追わないと決めたからこそ 己の弱さを赦しながら 君の行く道に光が射すことを祈るよ 互いの歩む道が いつか再び交わることを願ってる  最後まで読んでいただきありがとうございました。  よかったら「スキ」→「フォロー」していただけると嬉しいです。  コメントにて感想をいただけたらとても喜びます。

【詩】自分らしく生きられるなら

私にとっての幸せ それは 自分らしくいられること 自分らしく生きられること 自分らしさ それは 誰かの顔色を窺うことなく 心のままに 自分が嬉しい時に喜び 自分が心揺さぶられた時に泣き 自分の思いを押し殺さずに言葉にできること 自分らしさ それは 自分の感情に素直でいられること 自分の感情に蓋をして目を逸らすのではなく 今こういう気持ちなんだ、 こんな気持ちの自分でもいいんだ、と ありのままの自分を肯定できること そんな最低限で当たり前なことを と思うかもしれないね そ

【詩】もう一度

見知らぬ街を歩く夕暮れの時 遠くで聞こえる祈りのような詠唱の声 祭典へ行く人々とは反対方向へ 僕は混ざり合えず彷徨う異邦人 薄闇の中 道に立つ老人に 向けられる炯々と光る鋭い眼差しと 全てを見通したかのような意味あり気な笑み 耐えらずによろめく足で走り出す 日の落ちた空に浮かぶ街の灯り 背にして一人進むのは荒野のでこぼこ道 闇の中解け込んで行こうとする僕に向かい なぶるように風が大きく吹きつける 舞い上がる砂埃 視界を塞ぎ 責め立てるように容赦なく襲いかかって来る 巻き

【詩】海とは

日常的に絶望の中で生きていた少年期 海とは 人生を終わりにするために辿り着く場所 そんな漠然としたイメージを持っていた 悩み消耗しつつ何とか日々を生きた青年期 海とは 心を震わす絵画のような美しさで 癒しと力を与えてくれる場所だった 生き方を問い再生の闘いにあった壮年期 海とは 潮の香りと規則的に響く波音で 己を見つめる助けをくれる場所だった 多忙の中にも平穏を感じて生きる中年期 海とは 緊急に希求する場ではなくなったのだと 懐古し改めて今の幸せを思う  最後まで読ん

【詩】「いいこと」とは

毎日いいことなんて1つもない そう断言している人に出会ったんだ ある時耳にしたこの人の他者紹介は 終始ネガティブベースな断定口調で まるで周囲には 嫌な人や気に入らない人ばかりいるかのよう そんなふうに感じるもの? と驚いたよ そんなふうに思いながらの生活は 相当にストレスだろうし にも拘らず色々な責務を果たしているのは むしろすごいと思うけれど ふと この人にとっての「いいこと」って何だろう と思ってしまったんだ 感じ方も「いいこと」の基準も人それぞれ だからとやかく考

【詩】気づいたこと

髪を切りに行って 切られながら顔馴染みの店員さんと話す 内容は余裕のない近頃の仕事状況など 言われたのは 「体に気をつけて下さい」 という言葉 「今は気を張っているから大丈夫でも それが無くなった時に 急に来るものがあるかもしれないから」と ふと最近寄せられた言葉を思い出す 「身体にあまり負担を掛けないようにして」 という言葉 てっきり飲酒を心配されてのことかと思い 量は少量だと答えたけれど もしかしたらあの言葉も 同じような意味だったのかもしれない と考えさせられる 気遣

【詩】扉を開けて歩む道

鍵を開けて開く扉 先へと続く一本の道 辺りを見渡しながら踏み出す一歩 初めての場所でありながら感じる懐かしさ それと同時に人々の会話から 確かに時が流れたのだと教えられる 誇り やりがい 充実感 そしてそれ以上に 感じざるを得ない責任の重さ 力不足を思い知らされる時 離れていた歳月に対する後悔がよぎる 結局今の自分は中途半端な者に過ぎない 解決できない問題に胸を痛める時 心許ない足取りで進む姿は まるで救済を求める放浪者のよう いつか振り返る時 この日々を温かく そ

【詩】いい天気

いい天気と言えば 晴れのことだと思っていた けれど今の時期 晴れた日の空を舞い漂う「あれ」に 苦しめられる君は 雨が降ると嬉しいと言う 君にとって今の時期は 雨こそがいい天気 そうだね しっとりと降る春の雨は 乾いた大地や大気を潤し 芽生え来る新たな命を育むだろう そっと心までも潤し 包み込むように降る恵みの雨 間違いなくいい天気だ  最後まで読んでいただきありがとうございました。  よかったら「スキ」→「フォロー」していただけると嬉しいです。  コメントにて感想をいただ

【詩】安心感

子供が学校に行きたくない、と言う? 理由は聞きましたか? きっと〇〇があるから行きたくないと思う? 思いを表現できる子ばかりとは限りませんし 匂わせる言動があるのかもしれませんけど 本人がそう言ったわけではなく あなたがそう思ったんですね? それで 努力を無駄にせず立ち向かってほしくて 強い口調で登校するよう怒鳴ったんですね? それで最終的には 不機嫌そうな顔で嫌々登校したんですね? あなたとしては きつい言い方だったことを反省している けれど 不登校を心配する親心が

【詩】反転する価値

あなたの長所は何ですか? 不意に発せられたそんな質問に 逡巡する自分がいる 自分をポジティブに表現すること自体が あまり得意ではない 言葉にした瞬間に自分の中で 本当に? という疑いに変容してしまう 所謂自己肯定感的な所に 原因はあるのだろう 逆に自分をネガティブに表現することは 難しく感じずに気楽でいられる 傲慢さを感じさせないことが 他者からの批判をかわすための 所謂自己防衛的なものとして 身に付いたのかもしれない それでも 「謙虚さ」は「卑屈さ」と 受け取られてし