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今日の読書 4/28


※ネタバレあります。ご注意ください!


山田詠美さんの「A2Z」読了しました。

タイトルはAtoZと、読みます。
プロローグとエピローグの間の26章にaからzの単語が入ってきます。
accident、breathe,confusion…と続いていきます。読んでいる途中に気がつきました。お洒落だなあと、呟きました。

出版業界の第一線で働く夫婦のW不倫が書かれています。
主人公の夏子さんは旦那の不倫を本人から聞きますが、文句は言いながらも騒ぐことは一切しません。別れろとも言わないで、その後も旦那が合うことも黙認します。

「私も恋人を作ったら気が楽?」
「どうかな。でも、やけになっちゃ駄目だよ。自分を大切にしなくちゃ」
「やけになってつき合う人を恋人とは呼ばないよ…」

夫婦でこんな会話をします。

なんだかお洒落です。

結局、郵便局とつき合うことになった夏子さんは、とてもかっこいいです。

女友だちとの会話でこんなのもあります。
「ナツ、これからその男を、抱くの?」
「そうだよ。でも、私も抱かれるんだよ。」

やっぱりなんだかお洒落です。

高いシャンパンも出てきます。
彼氏のためにつける香水について、ディオリッシモはためだとか、CHANELの19番にするなんて会話も出てきます。

私の知らない世界でよくわかりませんが、お洒落です。

世界観が高級な香水のように鼻をついて、読まなくなることもよくあることです。

でも、最後まですらすらよみました。

それはお洒落な文章、設定、会話の奥に一本の芯が通っていると感じたからです。

その芯は、「こうありたい自分」です。

ダサくはないでも、ある程度正直で誠実な、美意識。


思いやりながらも、もたれ合い過ぎない愛人や友人職場の人との関わり方。

幼くなりすぎなくて、でも頑固に凝り固まらない精神。

「恋って仕様もないものだと思うよ。私は」
「格好悪いよな」
「成生もそう思う?」
「うん。だって、主人公のつもりになっちゃうんだぜ…」

そんな生き方を、夏子や旦那、不倫相手たちは軽々と過ごしていきます。
いえ、一見軽々としているように見えますが、そこには強靱な意思があることがわかっていきます。

不倫相手は、もっと夏子のことを知りたいという嫉妬を伝えます、旦那は若い愛人と別れて、夏子のところに戻ってきます。
夏子は戻ってきた旦那を家に残して出ていきます。
それでも、不倫相手とは別れの時がやってきます。


私だって同じ。同じ気持ちなんだよ。それなのに伝えられない。饒舌な言葉の洪水の中で仕事をしてる私なのに、と今思う。そんなものちっとも役に立たなかったじゃないか。

どんなにお洒落な仮面をつけていても、どんなに恋に慣れたいい女でも(いえ、いい女だからこそなのかもしれません)恋は真剣であれば、苦しいものだと感じていきました。

そんな苦しさを読者にも見せないで、から元気を見せつけるように最後のZはやっぱりお洒落に決まります。

彼が居なくなった部屋を片付けるシーン

何故か、昔観た映画の、ある場面を思い出し、苦笑いを噛み締めた。確か、ボブ•フォッシーの映画だった。最後に大写しにされた死体運搬用の袋。印象的な音と共に、映画は終わる。それはボディバッグを閉じるおと。Zip!

まさに恋愛小説の主人公のような最後の言葉は、夏子の強がりを本当にかっこよく締めてくれます。

お洒落でカッコさを貫き通した夏子のことを健気でちょっぴり羨ましくなりました。

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