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うつくしい人  西加奈子

西加奈子さん、初読みです。
先日、テレビに出てらして感じの良い方だなと。

セレクトしたのはこの作品です。


あらすじ
他人の目を気にして、びくびくと生きている百合は、単純なミスがきっかけで会社をやめてしまう。発作的に旅立った離島のホテルで出会ったのはノーデリカシーなバーテン坂崎とドイツ人マティアス。ある夜、三人はホテルの図書館で写真を探すことに。片っ端から本をめくるうち、百合は自分の縮んだ心がゆっくりとほどけていくのを感じていた-。

Amazonより


己は病んでいるのではないのか、不甲斐ない己を受け入れたくない、認めたくないと苦しむ32歳の蒔田百合、人生に、職場にでと行き詰まり、身動きが取れなくなってしまい退職。

心を癒しに芝と海の景色が綺麗なリゾートホテルへ5泊の旅に出る。

HEAVYな初っ端は、あらすじに書いてる通りの凝り固まった心がどう解けていくのか、展開を想像するだけで読むスピードが上がりましたね。

己が己であるってどういうことなんだろうと考えさせられる。
主人公の内省シーンは多くの大人が共感できるのではないだろうか。

自意識過剰で人の目や思いを勝手に想像し苦しくなる時節は成長への胎動だろう。
特に感じたのは人からどう見られるかを気にし過ぎる割に他者を見る目は卑屈で傲慢。

ここに幼さがあったのかな、ただこの青さはとてもピュアだと思う。
タイトルの「うつくしい人は」姉のことだろう。

容姿が美しい姉を意識し過ぎた幼少期、苦しみながらもそうなってしまう原因に気がつき憧れや妬み、嫉みやら作られた自分からもゆっくりと解放されてく。

カートに乗るシーン、カートのスピードに合わせ、へばり付いた何かを脱ぎ捨てていくような感覚は心地よい。

これまで身に着けた衣服、それを脱ぐ行為によって百合が身に着けた他人の目を脱ぐことを描写されてるのでしょう。

「どこへ行ったって日常から逃れることは出来ない。
日常が続いてるからこそ、その残酷さがあるからこそ、私たちは生きていける。
何かを忘れ、思い出し、悲嘆に暮れ、笑い、怒り、ふと我に帰ると圧倒的な日常に浸っていることに気ずく」

「海も変わるのだ、こんな立派な海が。
では私が変わることぐらい環境によって自分を見失ってしまうことぐらい、起こりえることではないか」

吸収することだけが生きることではないし、尊い価値でもない。
何かをかなぐり捨て忘れていくこと、置いていくことも大切だと教えられる。

テンションの変わり様に圧倒されたが、主人公百合の心の容量が満タンになり、表面張力がパンパンに張って無駄な自意識と自己嫌悪に苛まれる時期は誰にでもある、無かったら嘘だしね。
又、この若さから大人になる年齢からぶつかることも考えることの分量も半端なく増える。
これらを経てその人なりの人生を彩ってくんだな。

著者の西さん、あとがきで「明るい未来が想像できなくても、今を必死に生きなくても、思い出があればぐんぐんと進むことが出来るのです、私たちは」
と素敵に締めくくられてた、この言葉に救われる人はたくさんいると思う。

長い付き合いになりそう、★5個とお勧めさせていただきます。


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