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3秒男

出会い

彼とは10代の頃からの知り合いだった。

名前をAとしよう。

Aを一言で表すなら「Chill」だろうか。

動物園にいるライオンのように、戦闘能力は備わっているはずだけれど使い方が分からないといった感じの、肩の力の抜けた青年。

わたしとAは共通のコミュニティにいたのだが、決定的に仲良くなるきっかけはなく、すれ違うと微笑み合うような関係性だった。

どちらかと言うと派手な界隈に属していて、いつも魅力的な女を連れているA。

わたしはAを世界線が交わることのない男として認識していた。

きっかけ

その夏、わたしはハゲカスとの関係に悩んでいた。

ハゲカスは束縛の激しい男だったので、平日は毎日電話、金土日は必ず会わなければならなかった。

当時のわたしは洗脳されたように他の男からの誘いを断っていたのだが、Aはその硬いガードを打破する男だった。

インスタのストーリーを更新する度に、
「かわいすぎるんだけど笑」
「会いたいな」「○日空いてる?」
「いつになったら俺と付き合ってくれるん?笑」

と積極的なメッセージが来る。

わたしは押しに弱いので、Aの誉め殺し攻撃にすっかり気をよくしてしまい、それから1年の間に3〜4回ほどデートを重ねていた。

ハゲカスと別れた1ヶ月後くらいだろうか。

Aとわたしはとうとう付き合うことになった。

夜の異変

わたしにとって、「付き合う」ことは、「体の関係を持つ」こととほぼ同義である。

ドライブデートの帰り、A宅にお泊まりをすることになった、2人にとって初めての夜。

さーて、チ○コ検査と行きますか!^_^

とわくわくしながらAのAを受け入れると、なんだか様子がおかしい。

(え、なんで動かないの?)

どうやら、3秒で果ててしまったらしい。

「おかしい…こんなこと今までなかったのに」
「もっかい!もっかいしよ!」

焦るAが余計にダサく感じられ、わたしは「全然!気にしないで〜」と苦笑いを向けることしかできなかった。

終焉

あの夜以来、お互いの間になんとなく気まずい雰囲気が漂っていたことは間違いない。

Aが1週間の国内旅行に出かけた時のことだった。

わたしは自分から男にLINEを送ることがほとんどなく、Aからの「旅行楽しんでるよ〜」的なメッセージを待っていたのだが、Aはわたしに対して一切の連絡をよこさなかったのである。

募るイライラ、不安、なんだこいつ…。

Aは帰ってきた日の深夜に「帰ってきたよ!」という1週間の音信不通の後に初めて送るにしてはあまりにも短いメッセージとともに、不在着信を入れてきた。

翌朝、メッセージを見たわたしは、
「え、何?どういうこと?」とAに送った。

「いろいろ考えたけど付き合うのは違うと思った、ごめん」といった内容の返事が来て、わたしとAは終焉を迎えた。

終わり方が無礼に感じられたので、わたしはAのSNSを全てブロックすることにした。

Aとは昔からの繋がりだから大切にしたかったのに、一度恋人になってしまうと友達には戻れないんだなあ…。

3秒じゃあ、合わせる顔ないか…。

P.S. わたしと付き合っている期間、Aがマッチングアプリで活動していたことを友達からのタレコミで知った。

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