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旅行帰りの恋人は宇宙人だった?とってもエコなSFラブストーリー『地球でハナだけ』

あのう、最近彼の様子が変なんです。生活態度はいいし、自立してるし、口からビーム出すし…とってもらしい、チョン・セランのラブストーリー!

 主人公は韓国で洋服のリフォーム店を営むハナ、流行に乗らない地味な店だ。その彼氏キョンミンは定職らしいものがない、いわゆる芸術家気質でフラフラとしたお方。ハナとキョンミンは付き合って長く、周りから結婚しないの?と言われるくらいのお年頃。
  そんなキョンミンが星を見にカナダにまで出かけて、帰ってくると何だか様子がおかしい。それまで自分でゴミ出ししたり、掃除しなかったのに、自主的に家事を行うようになる。それどころか、ハナに対しての態度もカップルとして責任を果たそうとする。
 正直言って、めっちゃ大人になっていい感じじゃない?って話なんだけど、ハナなんだか不気味に思う。これって本当に私の彼氏か?と、疑っていれば、ある日キョンミンが口から光線を吐くシーンを見てしまう。
 
 というのが『地球でハナだけ』のあらすじ、一言でまとめちゃえば旅帰りの彼氏が変!という話である。のだけれども、これが面白いのなんのって、ともすればやれ国家機関がとか、宇宙戦争がとかSFらしい重たい話に出来るのにそこはチョン・セランらしくとっても軽やかにまとめてる。
 読み終わると、ああ楽しかったとニヤニヤ出来る本になっている。

派手じゃないけど愛おしい、エコで今どきなラブストーリー

 あらすじを考えるとこの話、もっと派手にも深刻にもできるけど、とっても地味に仕上がってる。本当に地味、劇的な展開がありそうで、ない。ちょっとした事件もあえてサラサラと描かれるのでうっかり読み進めてしまいそうなほど。
 このサラサラと時間やとんでもない事件を流していく軽やかさがいかにもチョン・セランらしい。説明しようのない面白さ+ほっこり=チョン・セラン風味とでもいうか、このハナとキョンミンの恋もそんな雰囲気だ。
 
 でもそれだけだとあまりにも短い感想になっちゃうので、敢えて特徴をあげるとこの話、とっても今どきでエコです。まずもって主人公の仕事が洋服のリフォームだし、子どもは地球の環境を考えると自分は産まない選択をしてるし。
 作中とあるところで、結婚式があるんだけどその会場は近所を借りて、式場は自分たちで可能な限りリサイクル可能な資材で飾り付ける。新たに家を立てるとか、引っ越すとかそういうことすらしない。
 主人公のSDGS的な行動を追っかけるだけで、エコなる生活とはなんぞやが分かりそうなほど。でも、それをハナ自身は高邁な理想があってやってるわけでもないのが、何とも気楽でいい。ちっともお洒落に見えないのもポイントかもしれない。

『保健室のアン・ウニョン先生』も『屋上で会いましょう』も読んでみて!チョン・セランという魔法使いのような作家の魅力

 チョン・セランは韓国の作家で、ここ数年来翻訳が定期的に出ている韓国の作家の一人。中でも亜紀書房はチョン・セランの本とシリーズ化もしてるほど。
 Netflixでもドラマ化された『保健室のアン・ウニョン先生』や『屋上で会いましょう』を読んでみて思ったけど、チョン・セランって面白い。
 どの作品も読み口がすっごく軽い、だけど面白い、すっごく変な話なのに読み終わると元気になれる。それがチョン・セラン、あっさりしてるのに滋味たっぷりな憎いやつ。
 何だか長編読むのかったるいな、漢字ばっか、横文字ばっかの欧米系の翻訳ものはしんどいな、でも日本の身近過ぎる話も嫌だな、でもそれなりに面白いの読みたいな、っていうワガママな気分のときに読むのに最高。
 いつだってチョン・セランは、そんなの欲求を全て満たしてくれる。妙ちきりんな話なのに、クスっと笑えて、ついついもう一話もう一話って読みたくなる。そうして読み終わると、あーサッパリした!楽しかった!という気分だけが残ってる。
 もしこれからチョン・セランをお読みになる人がいるならば、ぜひそのヘンテコな、でもほっこりな魅力にハマって欲しい。

 ちなみに、チョン・セランは短編集『絶縁』の発起人というか、企画の発案者もやっているのでこちらもおすすめ。アジア系の作家が一堂に会する贅沢な一冊です。


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