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愛ってなんだろう〜「ダメージ」「愛人/ラマン」が教えてくれたこと

高校生の時、祖父から渡されてヘルマン・ヘッセの「若きウェルテルの悩み」を読みました。この本から生きることの根底にあるのは恋愛だということを知り、高校生ながらにとても衝撃を受けました。今思うと祖父は私の芸術好きな性質を見抜いていたのですね。感謝しかありません。

こんなこともあり若い時からしばしば「愛ってなんだろう」と考えてきました。今日はそんなアンテナに強く引っかかった映画2本について書きたいと思います。

ダメージ

https://youtu.be/QHoSvQwvrnw

ルイ・マル監督1992年の作品です。
主演は愛や運命に翻弄される男を演じたら右に出るものはいないジェレミー・アイアンズと「ポンヌフの恋人」「汚れた血」「存在の耐えられない軽さ」などのジュリエット・ビノシュ

ジェレミー・アイアンズが演じるのはイギリス上流階級の男性。上流階級というだけですでに勝ち組なのに、彼には次期大臣の座までもが約束されており、仕事も幸せな家庭も何もかもを手に入れているのです。
満ち足りた人生を振り返るようにゆっくりと部屋を見渡しながらもそこで見せる一抹の寂しさを感じさせる素晴らしい表情からこの映画は始まります。

この表情です。

彼には息子がいます。愛してやまない一人息子です。その息子が連れてきたフィアンセと一瞬にして恋に落ち、そこから先はただただこの恋に振り回されてしまいます。自分でもどうにも出来ず、彼の人生を大きく変えてしまう恋でした。

息子のフィアンセを演じるジュリエット・ビノシュ

息子のフィアンセがジュリエット・ビノシュなのですが、なんとも掴みどころのない女性を見事に演じきってくれています。

情事を重ね、愛の深みにはまる2人に突然の悲劇が起こりますが、ネタバレになるのでこの詳細は伏せます。観る者誰もが予想する通り、当然、2人の関係は破局を迎え、男は家庭も仕事も何もかもを失ってしまいます。
そんな彼のラストのモノローグが観る者に「愛って何だろう」と思わせてくれる素晴らしいものなのです。

「数年前に空港で彼女を見た、赤ん坊を抱いた彼女はただの女だった」

すべてを失ってまで愛したはずの女だったのに、男にこう言わせてしまうなんて、一体、愛って何なのだろう

私は30代でこの映画を観た時にその感想しか残りませんでした。若い時にぜひ観て頂きたい一本です。


愛人/ラマン

フランスの作家、マルグリット・デュラスの自伝小説がジャン・ジャック=アノー監督により映画化された一本です。


1920年代のベトナムを舞台にした裕福な中国人青年と主人公のフランス人少女の物語。レオン・カーフェイの陶器のような肌と少女の早熟さが醸し出す魅力が印象に残るとても官能的な一本です。
私はこの映画は官能的であるからこそ良いのだと思っています。

早熟な15歳ならではの魅力を放つ少女です。

少女が寄宿舎に帰る船上で2人は出会います。当時のベトナムはフランス領、中国人青年が自分よりはるかに裕福であると分かっていても少女はアジア人を見下しています。ですので寄宿舎まで車で送るという青年の紳士的な申し出を、少女はまるで召使いからの言葉を受け入れるかのような気持ちで承諾するのです。

船上での出会い。申し出た青年は緊張で煙草を持つ手が震えているのが印象的です。

この出会いをきっかけに2人は官能的な関係を持ち、少女は青年に心を奪われたわけではなく青年の裕福さを目当てに関係を続けます。少女の母も気づいていながら青年からの援助が貧しい家計の助けになるので2人の関係に気づかぬふりをします。

言ってしまえば、お互い体と金だけが目当ての関係のはずでした。ですが青年はあくまでも優しく紳士的です。少女の家族を食事に招いた時も家族の無礼な態度に腹を立てる様子など微塵も感じさせません。
その後も青年は優しく少女の体を愛し続けます。そして少女はあなたを愛していない、と言い続けるのです。

やがて青年が家族の決めた相手と結婚することをきっかけに2人は離れることとなります。ここでも少女は悲しみなど全く感じていませんでした。彼女にとって中国人青年との関係は打算と好奇心故のもの、そう思っていたからです。

映画では出会った時と同様の船に乗るシーンで別れは描かれています。
少女が乗った船を波止場の隅の車中から青年は密やかに見送ります。見送られていることに気づいた少女は自分でも分からない涙を流してしまうのでした。

映画のラストは数十年後のある日です。作家となってフランスで暮らしている主人公に青年だった人から電話が来ます。

「今でも君を愛している」

その言葉で初めて主人公は自分が少女だったあの日々の中、青年を愛していたことに気づくのです。

きっと彼女はこの時初めて泣いたと思います。
どんな状況でも愛は生まれ、そして自分が気づかないだけでそれが本当の愛であることがある。この一本は私にそう教えてくれました。









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