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sentimental trip|#シロクマ文芸部

十二月。

冬の日が短くなってから、

ひとりで夜の散歩をするのが

好きになりました。

 


冷たい空気を吸い、

頭を冷やすと

自由に考えにふけることが

できます。



川べりの道路は、

ほとんど誰も歩かない時間。

一方通行の車が時折過ぎるだけで、

静かになってきていました。



コートのポケットに、手を入れて

歩きました。

ポケットの片方には、時計がわりの

携帯が入っています。



暗く光る川は、

知らないどこかの山から、

海へと遠く延びて流れます。




夜には、夜の景色。

日中なら、親密そうに群れて

水辺にいこう渡り鳥たちも、

この時間には気配すらありません。



(おしどりたちは…

どこかに隠れている?)



仮初めに棲む渡り鳥にも、

「巣」はあるのだろうか、と

考えていました。



✢✢✢



何故か、数年前に会った

年配のカウンセラーの女性の顔が、

スポットのように頭に浮かびあがりま

した。


――みなしご、みたいね。



よみがえる声。

彼女は、思慮深げな様子でこちらを

見ていました。



言われたとき、

どん、と何かでかれるほど

驚いたのです。

私には遠い言葉と思っていたから。



平気なふりで、

うなづくしか出来ませんでした。

大人の対応として。




(みなしご。

たしかに…

父も、

母も亡くしてしまった。

親代わりに気遣ってくれた、

おじおばたちも、

今はもう いない…)



突然フラッシュバックした

痛すぎる記憶に、

足を取られてふらつきました。

向こうから警告のように車のライトが

滑り込んできて、また通り過ぎます。



喉の奥に思いがせり上がってきて、

振り払うように顔を上げたら、

欠けた月が…そして星々が、

こちらを見ていました。



(ああ…)



やるせない、としか言えません。



(まず誰よりも。

いっとう先に亡くした、

やさしい父に

会いたい…)



父親のとなりにいるのが好きでした。

たばこの煙さえも。



子どもの頃、

バイクの後ろに乗せてくれた。

しがみついた大きな背中。



寝る前に、

毎晩聴かせてくれた。

子守唄のようなジャズボーカル。




次々出てくる濃密な感情に、

少し足早になります。



(気分転換の散歩のつもりが、

おかしなことになってしまった…)



✢✢✢



息を切らし気味に、

家へたどり着きました。



「おかえり」

ふたつの穏やかな声。



靴を脱ぐ手が止まりました。

玄関のたたきで。

わかっているはずのことに、

夢からまた覚めるように、

そのとき、身体で感じたのです。



(私が、今いる場所は“ここ”。

愛する人たちは、“ここ”にいる。

だから、“大丈夫”だ…)



リビングからの明かりが漏れた

ドア越しに、

いつもと変わらぬ声になるよう

整えながら、

答えていました。



「ただいま…遅くなりました。」




✢✢✢



十二月という月は、
自分の人生を振り返ることが多い月ですね。

思い出を集めて暖かく感じるとき。
思い出は記憶にあるだけだと虚しくなるとき。


そのときによって感覚は変わりますが…


子どもたちには、
明るい自分の思い出を遺したいです。



このnoteは、#シロクマ文芸部の
「十二月」の課題にインスパイアされて、執筆しました。
(遅れましたが、思いついてしまいました。陳謝)



✢✢✢


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