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渋谷人類の真夏デート


真昼間、渋谷を歩いていて妬く。

君と僕のスーパーフライデー。曜日の順番が今年から変わって、6日間金曜日が続いた後にスーパーフライデーが来る方式になった。

ブルーベリープリン、ベリーベリーストロベリー

災害級の暑さで

災害級のデートだ。

僕が汗をかいてるかと思ったら

汗が僕をかいてた。

渋谷がかいた汗に押し流される。スクランブル交差点をあちこちにコピペしたみたいに今日は人が多い。

とにかくみんなうるさくて手をやいて

この胸に焼き付けられるものって妬ける。

もっと君みたいにできたらいいなと思う。

君には錯綜した透明感があって妬ける。

涼しげな君。君が日傘をさしてるのかと思ったら
日傘が君で涼んでいた。

僕だけが汗だくで

ドラマチックに立ち向かえる困難に妬いて

まだ世間擦れしていない君には本当に妬ける。

僕はこの胸の中に君を持っていて

そういう僕に僕は妬いてる。

君の名を仮に、ブルーベリープリンかベリーベリーストロベリーと名付けて妬いて

子供みたいに時を忘れる。

互いに全く何事もなく並存できていて、夏に埋もれた渋谷がある。

ねえ、君の

その錯綜した透明感を僕にくれよ。

僕に

全部

くれよ

渋谷みたいに再開発中の今の君のその中で今日も僕は幸せに妬いてる。



🏗   🏗   🏗   🏗



ある調査機関が若者に実施したアンケートで、デート中に相手が何回まで脱皮しても許せるかという質問に、もっとも多い答えが6回だった。

その次に多かったのが、“何回でも許せる”。

気候変動が激しくなった地球上で人類は生き残るべく体質を変化させた。

人々は脱皮を繰り返して体温を低下させていく方法を選んだ。

渋谷。スクランブル交差点。信号が変わると脱皮した人の抜け殻がバラバラと落ちている。それを避けるように車が走っていく。

もしもギリシアの悲劇詩人だったら、この状況をいったんは喜劇的に表現してみるんだろうか。

公衆脱皮室も各所にはあるが、みんなもう歩きながらでも脱皮できるので、不便を感じたりはしない。

サーティワンで冷たいアイスクリーム買って食べながら脱皮するととても清涼感を味わえる。

僕は人よりも脱皮回数が多いので、デート中に君に嫌われないか少し心配だった。

でも君は脱皮しながら微笑んでくれて、手を繋いだまま二人で脱皮した。

ヘビは十二支のなかでもっとも謎めいた動物なんだそうだ。人類はこの最悪の夏を乗り越えて強くなり、一皮も二皮もむけた存在になるだろう。

山手線のホームで電車を待つ。脱皮がうまくできなかった人が具合が悪くなって駅員さんに運ばれていた。

電車が来る。ドアが開き、まずは脱皮したものを外に出してから人が降りて、そして僕らが乗った。

デートの時に『脱皮止め』を塗る人もいるけど、体に悪いから僕らはしない。

今日はこれから品川の水族館に行こうと思っている。

脱皮ができるようになったので、“みんな泳げる水族館”としてリニューアルされた。

体が濡れたら脱皮すればいいし、サメとかエイが来たら囮弾みたいに脱皮すればいい。

脱皮した直後の君って最高に綺麗だ。それに君の抜け殻は胸の透くような輝きをもっているし……。

電車に揺れながらそんなことを考えていたら、つり革を持つ手だけ脱皮してしまった。

君が「脱皮してるよ」と教えてくれなかったら僕は自分を電車に忘れて降りるところだった。

今度、どこか温泉に行こうと話したりした。

脱皮に良いお湯が北関東にあると聞いた。とても楽しみだ。

素敵な未来を描けるのは、未来が待っていてくれるからだ。

例えば愛が世界を征服し、憎悪が終焉することを僕らは信じている。

ようは平和をだ。

電車が止まった。開く側のドアの前に移動した。

ここからまた僕らは夏に飛び出す。

品川に着いてすぐ脱皮して

そのあとで君は僕に微笑んでくれた。



                      終

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