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あのたび -香港の重慶大厦-

 2003年の2月7日に日本初上海行きの船で出国してちょうど1年になった。東南アジアをぐるりと周り現在はシンガポールに滞在していた。友人Nの厚意に甘えて部屋に泊まらせてもらっていたが、いよいよ香港へ飛行機で飛ぶことにした。

 日本で社会人をしていた頃、ランチに洋食屋のマ・メゾンという店に同僚とよく行った。今思うとバブリーだったなと思うが仕事の合間の楽しみといえば食べることくらいなので、少々高くても美味いものを口にしたかったのだと思う。

 その洋食屋さんがシンガポールにも出店しているということを知り、懐かしいので最後に奮発してココで食事をしようと考えたのだ。

 内装はやはりオシャレで普段一人だったら絶対に立ち寄れない雰囲気。SetBのバンバーグだかなんだかを注文した記憶がある。12.8+TAX2S$(≒990円)。現在はもっと高くなっているだろう。

 オーチャード・ロードから空港行きのバスに乗る。空港に着き出国手続きをしてスタンプを押してもらい飛行機に乗る。荷物は膝に抱えられるくらいの大きさのリュックなので預けずに機内に持ち込む。しばらくすると滑走路を加速して離陸する。

 この1年の長い旅で初めての飛行機だった。同時に、ああ旅がもうすぐ終わってしまうんだなという寂しさもあった。

 わずか4時間で香港に着く。寒い。冬の真っ只中だ。空港内で余ったシンガポールドルを香港ドル両替をし、Jordan Rd行のA21番バスに乗って重慶大厦(チョンキンマンション)を目指す。33HK$(≒500円)

 アジアの雑多で猥雑な雰囲気が好きなボクにとって香港は大都会で何の面白みもない。東京やシンガポールと違うのは2階建てバスのトラムが走っているということだけだ。その中で唯一興味深いのがチョンキンマンションである。

 今にも崩れそうな外装もはげたようなドデカイ建物が継ぎ足し継ぎ足し増築されたような、なんだか未来のサイバーパンク世界を思わせる空間だ。バックパッカーの聖地としても知られており安い宿はだいだいここの上階に集まっている。その中のどこかよくわからない宿に泊まったのだと思う。暗く、寒く、シャワーを浴びる気にもならなかった。

 これまでずっと毎日日記を付けてきたのだが、シンガポールに着いて以来それがとぎれとぎれになっている。当時の手帳は毎日いろんなことが書かれていて小さな文字で真っ黒だった。丸1年たったことで書く欄が無くなってしまったというのもある。香港に対する思い入れも少ないだろうことがうかがえる。

 ここはサンダルでは寒い。もはや見たいものは何もなかった。

香港ルート

(つづく)


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