Dead Appleで中也はなぜ無事だったのか。

以下はDead Appleにおける、中原の異能と太宰の周辺の考察です。
銀幕と舞台は履修済みですが、小説は未見ですので、穴があったらご指摘ください。

霧の発生時、中也はどこに居たのでしょうか。
映画では謎でしたが、舞台では霧の中で芥川を救出する場面が描かれています。
なぜ、異能が分離しないのですか、と尋ねられ、中也はこう答えます。
「俺の異能はちっとばかし特別でな。存在がデカすぎてこの程度の霧じゃ分離できねえ」
「ヤツが分離しちまったら、それこそヨコハマが終わりだからな」

異能が特別という自覚はあった模様。
まあ、ストームブリンガーで散々経験した1年後に龍頭抗争で澁澤と対峙し、それから6年が経過しているんですからね。
自分の異能や澁澤の『ドラコニア・ルーム』についても研究を重ねたんでしょう。

※史実の澁澤龍彦と中原中也の接点は、ともにイケメンで通っていたこと以外、特に見つかりませんでした。

しかも「分離しない」ではなく「分離できない」。
分離しようにも分離できない仕組みがあった、または整えていたことが伺えます。
加えて、澁澤の『ドラコニア・ルーム』に触れると、荒覇吐を解放してしまうことも理解していたようです。

ここから先は推測が混じりますが、おそらく荒覇吐を完全に分離させてしまうと、中也は死亡してしまうのではないでしょうか。魔獣ギーヴルが消滅した後、ヴェルレエヌが生命活動を停止しようとしていたのと同じように。
もっとも、そうはならずに中也はただの人間として生き残るという可能性も、完全に排除はできません。

さて、ここから先は本題です。
中也の異能はなぜ分離できないのか。

仮説は2つ。
1つは太宰から事前に入れ知恵をされていて、澁澤対策を完全に固めていた説。
1つは太宰にはまだ本誌で明かされていない仲間がいて、その異能によって守られていた説。

まず太宰の入れ知恵説。
太宰は澁澤のヨコハマ侵攻を前に、完全に阻止することは不可能と判断。
澁澤の手引きをするふりをして潜入、『ドラコニア・ルーム』を封じようと暗躍します。
もちろん、作戦失敗のことも重々想定していたはずです。
その時の切り札は、間違いなく中也の『汚濁』でしょう。
であれば、中也の異能が霧で分離してしまうことは何としても避けるはず。

中也の『汚れつちまつた悲しみに』は触れたものの重力のベクトルの向きと大きさを操作する能力、と説明されています。
霧は『ドラコニア・ルーム』から漏れ出る龍の吐息らしいですが、やはり粒子状の物質であると想定されます。その粒子に触れた異能者の異能に作用する、と考えるのが自然でしょう。
中也の異能は粒子状の物体とは極めて相性が悪いですが、それは小麦粉落とし穴に突き落とされたり、水中に沈められた場合の話。
霧状に霧散する粒子を、片っ端から弾き飛ばすように異能を展開していたならば、おそらく『ドラコニア・ルーム』の影響を受けずに行動することが可能だったはず。

ただし、中也の異能は常時発動ではなく選択発動式であると思われ、また己の体内には発生させることができない、つまり体表面で「触れる」ことが絶対条件であると思われます。

※追記
って言うか、刺されてるもんね、中也。

理由としては、常時斥力を発生させていたならば、身体を維持すること自体が難しくなるからです。
いわゆる宇宙酔いのような症状に24時間悩まされ、身体がボロボロになったのではないでしょうか。マフィア随一の体術使いと称せられる肉体は、維持できないはずです。
重力操作は極めてハイリスクな異能ですから、その意味もあって常時発動ではなく、中也の意思で発動・停止を切り替えられると考えた方がいいでしょう。

また体内で発動できない根拠ですが、酒に極めて弱いという点から、体内の酒を斥力で弾いて排出することができないのだろうという考察が「強引ですが」成り立ちます。

このようなことまで考えることは、失礼ですが、中也一人でできるでしょうか?(本当に失礼だな)
やはり、ブレーンとしての太宰の暗躍があったのではないか、と推測できます。

しかし、濃霧の中では流石に「膨大な数の粒子に圧殺され」、『ドラコニア・ルーム』に押し負けて異能が分離する……と考えると、『汚濁』で龍をぶちのめした後で、太宰が中也から手を離さなかった理由としては納得できます。

すごく真面目に考えたので、物理学的に穴が少ない仮説だと思います。
それだけに面白くないですね。
文豪ストレイドッグスらしくないので、もう一つの、もっと面白い大胆な仮説に行きましょう。

まだ見ぬ太宰の仲間説。
史実の太宰治は、さまざまな人間とさまざまな同人活動をしています。
その中で、興味深い作品や事実をいくつか挙げます。

まず、『青い花』。
以下、Wikipediaより抜粋。

同人は、岩田九一、伊馬鵜平斧稜太宰治檀一雄津村信夫中原中也、太田克己、久保隆一郎安原喜弘小山祐士今官一北村謙次郎木山捷平、雪山俊之、宮川義逸、森敦の18人。
この同人誌は寄合所帯であり、太宰と檀の身勝手な狂乱によって同人はバラバラの状態となり、続刊されることはなく創刊号で廃刊となった。その後、メンバーの大半は「日本浪曼派」に吸収された。しかし、森敦は、日本浪曼派へは参加せず、放浪生活に入った。

以上。
青い花の命名は中原中也だと面白いのだけれど、残念ながら太宰の命名のようです。
中心メンバーは太宰治と今官一。
なんと中原中也が太宰と一緒になって活動していたという、恐ろしい悪夢のような(!)できごとが史実で起こっているのです。あな、おそろし。
しかも檀一雄は太宰に負けず劣らずの奇天烈な人材。中原中也ともども、太宰を苦しめたとも言われています。

また、これらのメンバーの中には無頼派と呼ばれた集団が属しています。
無頼派とは、坂口安吾、太宰治、織田作之助を中心に、石川淳、伊藤整、高見順、田中英光、檀一雄など。
つまりルパン3人組は、全員無頼派。

面白いのは檀一雄で、『小説 太宰治』を残し、奇天烈なエピソードを後世に伝えるという偉業を成し遂げています。
太宰が中也に甘ったるい声をかけているという、驚愕の事実がここに(笑)
例の桃の花事件も君が後世に残したのか(笑)

それにしても太宰は傍迷惑な人間である。

しかし、そんな太宰と共通性を指摘されるのが、石川淳です。

ここでは、特に石川淳と檀一雄に着目してみたいと思います。
石川淳の『普賢』では、主人公は人と人とを繋ぐ役割を果たしています。
また檀一雄の『火宅の人』の「火宅」とは、仏教用語で火が目前に迫っているにも関わらず、何かにのめり込んで気づかない様子を指しています。

太宰治と浅からぬ因縁が想定され、しかも実力や変人度も伯仲していたと思われる二人。
カフカ先生が見逃すでしょうか?
仮にこの二人を『文豪ストレイドッグス』に登場させるのであれば、相当に強力な異能力を与えるはずです。
そして、最近気づきました。

実は戦闘系の異能力って弱いな、と!

これは簡単にわかるんですが、戦闘系異能力って、もっと強い相手には何もできないんですよ。
しかし非戦闘系異能ってやつは、使いどころを間違えなければどれほど強い相手にも発動を期待でき、例外なく効力を期待できるのです。凄いよね?

だから、たとえば石川が「他人の異能力を第三者に貸借させる」能力、檀が「気づかれないままに相手に忍び寄る」能力を持っていても不思議はないんです。いずれも強力無比な能力ですから。

これは完全なる妄想で推理ですらないのだけれど、Dead Apple当時、中也には太宰が思いつく限りの無敵の防御力を与えていたのではないかと。

キーパーソンはもちろん石川で、一時的に中也に、太宰の無効化能力や檀の潜伏・隠蔽能力を付与することができたのではないでしょうか。だとすれば、中也は「『ドラコニア・ルーム』の影響を無効化した上で、攻撃を受けぬまま、自由に霧の中を歩き回ることが可能になる」無敵状態だったと考えることもできちゃうわけです。考えすぎか。

でもねえ、何しろ「分離できねえ」状態を作り上げたわけですよ、中也は。
いや、絶対、太宰が噛んでるよね?
上で出した「まだ見ぬ異能説」はただの妄想なんですけど、太宰が噛んでいて、中也が腹立たしくもそれに乗っかってヨコハマを守る、っていう構図は今までに何度も何度も見たものですから。
だからそんなに違和感がある設定じゃないです。

小説をまだ読んでいないですけれど、当然、中也は仲間6人を殺されていて澁澤のことを殺したいほど憎んでいたはずですから、特務課を半ば脅してでも仇が取れるのであれば、太宰の計画に不承不承乗っかった……ってなったら熱いですよね。
僕は、中也はとても熱い人だと思っていますから。
そして、ヨコハマを愛して欲しいと思っていますから。

だから、何らかの形で太宰が中也を霧から守り、ヨコハマを救わせたと考えたいですね。
はい、もちろんいつものように願望です。

ただ、檀一雄先生の名前って、実は原作コミック第一巻の後書きに出てくるんですよね。中也が史実の太宰先生のエピソードを紹介する場面で。
この人、本当に走れメロスを書いた先生か?と呆れる場面ですね。
実はそのエピソードこそ、走れメロスの元ネタなんですけど。
だから、檀一雄の名前がいずれ本編で出てくることを、僕は期待しています。

ところで中原中也は山口県の出身ですが、種田山頭火も山口出身なんですよ。
この二人が親密な間柄で、種田長官が中也をよく知っているという世界線も、なかなか面白いですよね。
それはまたいつか。

ではでは!

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