横溝正史『夜歩く』読了

再読。仙石直記と探偵小説家の私の二人は酒を飲みながらキャバレー『花』での事件を振り返っていた。古神家の娘、八千代は去年の十月三日。キャバレー花で芸術家・蜂屋小市を銃撃した。これが妖異と邪智、血族の呪いの始まりだった。

二十年以上前に読んだので、良い再読になった。犯人は覚えていたが、その犯人を決定づける、金田一耕助の推理の前提など完全に忘れていたので、感心させられながら読んだ。二人の障害を持った男、首無し死体、そして第二部に入ってからの岡山県で起こる一族のいざこざ。実に横溝だ。また、横溝の都会物と田舎物の両方を楽しめる実にお得な作品となっている。

そして金田一先生よ、アンタがもっと早くに犯人を捕まえていたら、一人死なずに済んだし、ラストのあの人も嗚呼ならずに済んだのに……とまぁ、この辺りは因果応報という事で済ましておこう。良い読書体験でした。





【ネタバレ注意】

さて、犯人は語り手である「私」こと、屋代寅太だったわけだったのだが、この手の作品は、とある作品以降かなり量産される事となっていたのだが、ここで、作品のフェア度について語ってみようと思う。

この作品は一応のところ、金田一が犯人を明かす(というか一人勝手に自白する)まで「私」が、探偵小説という手記の形を最初から表現している箇所がある。過去形で書かれたり。第二章の最初で「仙石の語りはまだつづくのだが~」以降は作中作という部類に入るだろう。

だが、故にフェアか? と問われると現在進行形の様に書かれている部分もあったりなど、わたしは首を傾げざるを得なかった。しかし面白い作品は時代を超えても面白いのだ。この辺りは作品にどっぷりつかったので、良しとするのである!


【金田一耕助の殺人防御率】

今作でもやってくれる。

金田一が事件にかかわって、死ぬ人数二人。

仙石鉄之進――少なくとも、金田一が全員を集めて謎解きを開始しようとしなければこの人物は死ななくても済んだのでは?

仙石直記――最後に早発性痴ほう症で、生ける屍同然になる。

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