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人間交差点、私の神7

私は『人間交差点』を愛している。

『人間交差点』は矢島正雄原作、弘兼憲史作画の漫画で、1980年から1990年まで連載された。
まさに、ザ・バブル、と言える漫画であり、私は産まれてもいない頃から連載していたため、もちろんリアルタイムでは読んでいない。
まぁ、私はバブルが好きで、80年代文化が大好きである。70年代も60年代も好きだ。50年代は微妙だ。90年代は好きだ。00年代は嫌いだ。10年代も嫌いである。20年代は好き。なんだかなー。

で、この『人間交差点』は基本的には1エピソード読み切りであり、なので、コンビニ本として流通させやすいためか、貴方がたもコンビニの漫画ラックで見かけたことがあるだろう。どうでもいいが、私はあのコンビニのラックが好きで、ああいう所で買う漫画はとても贅沢に思える。書店で買うよりも、遥かに面白そうに見えるのである。
『人間交差点』に関しては私もコンビニ本から入った口である。以来、手垢が付くまで読み耽った。確かに、現代の価値観と照らし合わせたら陳腐かつ、男尊女卑が過ぎる嫌いがあるが、まぁ、それを差し引いても傑作ではあるし、現代のポリティカル・コレクトネスにより言い難くなった本音の部分もあけすけに書かれている、とも言える。

昭和は暗黒時代である。それは確かだ。平成もまたそうだ。令和も今のところ暗黒だろう。我々は暗黒時代にいる。だからこそ、同じ時代を生きた先輩方を見習おうじゃないかと言うことで、私の好きな神7を選出!(10本面倒くさいし)

ネタバレ全開で行きます。

第7位 『手帳』

妙な感じの話である。いや、話というよりも、その作風というか雰囲気というか。主人公の少女が画家である祖父と会う。祖父は父と折り合いが悪い。
画家だから、海辺の美しい街に住んでいるが、この画家の父への愛情の橋渡しをする、そんな話であるが、親父、という存在は、基本的には子供を愛しているものである。然し、愛し方がわからない、男の身勝手さ故だが、そのせいでこじれた関係、それはもうもとに戻らないかもしれないが、然し、伝えることには意味がある。もう一度、大人になって語り合えば、少しは分かり会えるかもしれない……。愛情はストレートに伝えよう。言葉で言わないと、人には伝わらないのだ。

基本的に、親は子供の思っている10倍は子供を愛している(全てがそうではない)
なんかこの話はすごくシティポップ感があるんですよ。

第6位 『今ではなく…』

これは、主人公の妙齢の独身女性が色々な雑誌を読んで、それに影響を受けたりして、ファッションや旅行に金を使って人生を謳歌するのだが、段々とその遊び友達とも価値観が合わなくなり、一緒に遊んでくれなくなる。なので、会社の後輩を誘った所、「そういうの、私興味ないんで。」と断られた挙げ句に、ロッカールームで陰口を叩かれて若い世代にバカにされるという、そういう憂き目にあう話であり、主人公が駅で遭遇する酔い潰れて臭ーい臭いのするリーマンを初めはバカにするのだが、最後には彼を見て、自身を見つめ直す、という話である。

いや、海外旅行は素敵やぞ!
こんなパワーワードで影でディスられたら誰でも死んじゃうよ……。30年前だろうが40年前だろうが、常に若者は年配をディスる。これは最早人間のシステムであるので仕方ない。

最後にはナレーションで締めくくられる。

「あなたには、優しい言葉をかけてくれる人がいますか。
世の中のものを、あなたが選択している今ではなく……」

まぁ、家族礼賛の話である。なので、現代の価値観で言えば、人にはそれぞれの生きる道があるため、この人の生き方はそれでいいのである。だって、家族のために生きていても、今の時代、最終的には汎ゆる人間、この言葉が当てはまるでしょうに。

第5位 『時間割り』

この話は以前にもnoteで書いていたので、面倒くさいのでそれを読んでいただきたい。これは、相対的な時間の話である。時間、というものの概念を見事に恋愛と記憶とに絡めて描いた極めて文学性の高い作品である。

第4位 『煙』

この話は、才能のあるシナリオライターとその妻、プロデューサーの話であり、このシナリオライターはなかなかの頑迷な人だが才気煥発で、然し、娘の事故死により夫婦仲が悪くなり、シナリオも質が落ちていく。
プロデューサーは彼のデビュー作であるどうしようもない少年が丘の上から見下ろすたくさんの煙突の煙に涙する話のような傑作をまた書いて欲しいと思っている。プロデューサーは自身も才能があると思っていたが、モノホンのライターに出会っちゃってもう完敗、それなら俺、こっちに回るわってそう決心。的な、そういう感じでいい人である。

バブル喋り。いや、テレビマン業界喋り。私も今後はこの喋り方を追求していく。
青春ネタは他の話も結構登場する。

そして、彼の妻は、彼にもう一度自分を取り戻して欲しい、もう一度、このどうしようもない少年に昔を取り戻して欲しいと、ある芝居を演じる……的な話であり、これは大切なものを失ったことによる虚無を抱えた男の再生話である。

第3位 『追憶』

これは、ゼニゲバ坊主の改心の話である。自身が所有する海が見えるキレイな場所にマンションを建てる計画の住職、ここにやってくる謎の男が、なんとこの場所の所有権を持っているのだという。
男は満身創痍で、妻を失ったという。そして、その妻の墓を例の場所に建てるために土地を掘りたいのだという。ちょ、ちょ、ちょい待ち!ってなもんの住職、然し、土地の権利書を持っているため掘るのを止めさせることが出来ない。くそー!私のマネーライフがー!!と住職お怒りなわけだが、然し、最終的には男は掘り疲れて死んでしまう。そして、その際に住職に感謝の言葉を投げるのだ。掘る間、二人の時間を思い出せました。ありがとう、と。そして住職は反省する。人は死ねば一切が空。ただ、追憶だけが唸ると。

人間は死ねば消えてしまう。金など何の意味もない(いや、遺族がいる場合は別だが)。何よりも、神や仏の道に生きると決めたのならば、そこは外しちゃあおしまいよ。


第2位 『冬の蝉』

これも以前noteで書いたので、そちらを読んでいただきたいのだが、今作は個人的には感涙ナンバー1のエピソードである。

人間とは何か、人間は行き急ぐ必要性はない。

第1位 『あだしの』

傑作である。あだしの、つまりは京都の化野念仏寺のことである。この話に関しても、noteで別記事でも書いているのでそこを読んで頂きたいのだが、前後編の大長編(『人間交差点』にしては)であり、何度読んでも泣けてしょうがない話である。
無垢な子どもが死んだり、親子の情愛を出されると私は弱い。人間が愛情のために罪をかぶったり、耐えたりする話にも弱い。


この世界、この宇宙、人生は人間交差点。
誰だって、ムカつくやつもいれば好きな人もいるし、大切な人や憎い存在、苦手な人に会いたい人、様々にもつれ合っていく。
人間であることは辛いことで、苦痛や孤独こそ多い。不安や哀しみも。まぁ、でもそれは皆一緒だし、乗り越えていくしかない、この修羅の道。
けれども、この交差点では誰もが誰かの喜びにも、間違いなく関わっている。




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