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夢の印税生活

本の帯に、よく発行部数○○万部突破と書かれていることがある。
売上は一番強烈な惹句だろう。右に倣えの日本人にはとくに響く。皆買ってるからな〜、読んどきゃな的な感じだろうか。
映画の興行収入もそれで、私も興行収入は常にチェックしていて、結構な数の映画の興行収入は把握しているが、これもよく宣伝に使われる。

本の発行部数なんかは、私はよく印税計算をしてしまう。印税には何種類かあって、発行印税(発行部数の印税)や実売印税(実売数に則した印税)などがある。発行印税は作者に優しいが、実売は作者に厳しい。本など今の時代、売れやしない。
印税は10%のものもあれば、6%のものもあるし、それは契約で変わる。
最近購入した『正直不動産』の11巻には120万部突破とあったので、単巻で、10万9000部。原作と作画の二人なので、印税約6500万円近くあっても半分なら3250万円か…などと、下世話なことを考えている。

これがドラマ化すれば一気に跳ねるだろう。刷りまくって、累計は300万部くらいになる。そうすれば億になる。ドラマ化映像化は最大の宣伝である。
私の大好きな漫画の『ブルージャイアント』は現在シリーズ24巻出ているが、累計は730万部なので、単巻30万4000部、印税が3億6500万。

これまた大好きな『ブルーピリオド』は累計300万部なので、10巻で単巻30万部。
『ブルーピリオド』は秋にアニメ化されるので、新刊発売と合わせて500万部くらいはいくと思う。売れると発行部数が桁違いである。
500万部とはか控えめな予想で、昨今は当たると凄まじいので、1500万部くらいいく可能性もある。

然し、売れている漫画はごく一部である。後は悲惨な状況なのだ。
鈴木みその漫画、『ナナのリテラシー』において、その辺りを指摘した話があったが、要は一部の超勝ち組と、その他大勢の売れない作家で構成されているのが漫画業界である。漫画家の上位100人などは普通に億以上稼ぐわけだが、その下に連なる数千数万の漫画家や漫画家の卵は、別の仕事で糊口を凌いで、いつか売れる日を夢見て描き続ける。

そういう意味で言えば、例えば週間少年ジャンプで『ねこわっぱ!』を連載していた松本直也氏などは同作で打ち切りを食らっていたが、それから10年の歳月を経て、少年ジャンプ+で連載している『怪獣8号』が大当たりして、今は3巻までで300万部売れて、単巻100万部作家である。印税が……という話はやめておいて、凄まじい大躍進だ。

そもそも少年ジャンプの連載を勝ち取る作家なわけで、エリートで天才なのだが、売れない漫画もたくさんある。私は『最後の西遊記』なんかすごく可能性に満ちた作品だと思ったが、容赦なく打ち切られる。

『怪獣8号』は多分来年にはアニメ化して、すぐに1000万部を超えると思われるが、最近のウルトラヒット、例えば『鬼滅の刃』とか『呪術廻戦』とか、2000年代とか、2010年代には不可能なヒットの仕方をしていると思うが、それはやはり、漫画の読者層の一層の拡がりに加えて、SNSによる口コミ宣伝の強化、さらには配信による限りなくリアルタイムに近いアニメ作品の視聴など、漫画の拡散方法が増えたことも要因の一つに思われる。
最近4巻も発売された『チ。地球の運動について』なども、宣伝しまくっているので、これもSNSで非常に話題があり、アニメになって、また売れるだろう。

然し、基本的には漫画は売れないのである。小説はもっと売れない。初版3000部とかが普通の世界なので、それだと配信とかサイトなどで書いているそこそこ人気のある人と何ら変わりない。
一生懸命書いて、印税が100万円にも満たず、そして2冊めは出ない、的な悲惨なのが通常営業の世界である。
変わりがあるとすれば、名実共にプロであることと、文壇(のどこに位置するかはまた変わってくるが)のお墨付きがあるということだけだろうか。

とにかく才能がしのぎを削る漫画界は修羅の道である。
傍で楽しませてもらうのが一番で、小説はさらに地獄、売れようが漫画ほどの莫大な成功は望めない、餓鬼の集まる蜘蛛の糸である。
けれど、昇ることはなくとも、漫画も小説も描けるし、書ける。特に小説なんてさらさらとペンと紙、今ならばMacがあれば書けるので、とてもいい時代だ。
昇ろうと必死になると、それは真から離れるので、餓鬼の目線で、周りの餓鬼や自分を見つめるのが、一番大切だと思ったりなんかしてみたりして。


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