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戦友というギフト(5月2日〜5月8日)

5月2日(月)晴れ

日付が変わって1時間ほど経った頃に、恋人が仕事から帰ってきた。お母さんが帰ってきたときの小さな子供みたいに、勝手に涙がこぼれる。どうしようもないほど悲しい出来事があったとき、一人きりになりたいのも確かだけど、安心できる人が話を聞いてくれること、そばにいてくれることがこんなにも癒しになるということを知った。

それでも、私の悲しみに彼を引きずり込むことがなくてよかった、と心から思う。彼は彼で仕事をして、充実した時間を過ごせてよかった。私は私でちゃんと悲しみたかったから、この1日で正解だった。そう思いながら、3時くらいに眠りについた。

夜が明け、出社。今日から、会社では新しい期が始まる。私はやっぱり、もう少しこのチームで頑張りたい。丁寧で、大事なことがわかっていて、まっすぐにものづくりをする人たちと一緒に。

夜は、友達のやさしさに救われる。すごい人って、こういう人だ。目の前の友達に、ホットココアを差し出すように、安心をあげられる人。気持ちを楽にする一言をかけられる人。私はもう、簡単には会えない場所で暮らし、今だって一人家で日記を書いているけど、全然一人じゃない。そう思えて、本当にありがたかった。

5月3日(火)晴れ

先日、恩人をがんで亡くしてから、私は恋人に対して、健康に口うるさいおかんのようなマインドになっていて、自分が嫌になる。何も心配せず、手放しに笑えたらいいのに。今を楽しく生きることはこの上なく大切なことだけど、私にとって「楽しいこと」と「健康的であること」はセットなのだ。

いのちの心配をするとき、いつも朝井リョウさんの『正欲』の一節が頭を過ぎる。

ーほんと、なんが起きるかわからんよね、人生って。
いや、わかるだろ。溺れることくらい。
それとも、細胞のひとつにも裏切られずに生きてきた人間には、本当にわからないのだろうか。
朝井リョウ『正欲』

いつか終わりが来るとわかっていても、明日何があるかわからなくても、原因と結果が予測できることは防ぎたい。定期的に検診を受けてほしい、なるべく睡眠時間を確保してほしい、タバコとお酒はほどほどに…。そんなことばかりを気にしている。

でもまぁ、私はおかんじゃないし、例えおかんであっても他人の体であり、心であり、人生だから、踏み込みすぎないように気をつけたい。「大切な人を守る」って、言葉の響きの何倍も難しい。

5月4日(水)晴れ

今夜は、素敵なお客さんが我が家に泊まりにきてくれた。スマホをトラックに轢かれて粉々になりながらも、青看板を目印に東京から岡山へカブでやって来たタフガイである。彼と、恋人と、私の3人で、寝ることも忘れておしゃべりをした。

彼が撮る写真は、生っぽくて彼が居た場所の空気が伝わるようで、とても素敵。奇をてらわずに、でも新たな視点をくれるから、恋人も私も、彼が撮る写真のファンである。(私は特にこの文章と写真がお気に入り!)

過去の写真を見せてもらうのも贅沢な時間だったけど、「僕・私にとっての移動と、好きな移動手段」、「“東京”という街はない」、「東戸塚は新大陸?」、「人間の祈りが凝縮した場所は少し怖い」、「児島はほぼバルセロナ」などなど・・・アドレナリン大噴出なテーマがてんこ盛りだった。うう、やっぱりまだまだ話したかった!岡山の第二の常宿として、また遊びにきてほしい。

5月5日(木)晴れ

前職の同期が岡山まで会いに来てくれた(真の目的が岡山観光だろうと、相手に何と言われようと、私は「会いに来てくれた」と言う。笑)

まずは児島唐琴が誇るいしはるうどんで「甘〜〜」と言いながらマリーナベイサンズうどんを啜り、fuu saunaで汗をかき、三冠酒造で日本酒の味の違いを学び、王子が岳で夕陽に感動し、夜はいづつやの寿司で乾杯した(もちろんfloatにて)。

大好きな人たちが、遠路はるばる大好きな人と場所に会いに来てくれるって、すごくうれしい。でも、私だけが全員を知っているはずの空間で、びっくりするほどうまく会話ができなくて、戸惑った。あとで恋人に「同期といるときのあやちゃんは、いつもとちょっと違うね」と言われて、なるほど、と思った。

私は無意識に、東京での戦友と岡山での友達とで、接し方を分けているのだ。それは一緒に過ごした年月の違いもあるかもしれないし、どちらかに心を許している、ということでもない。どちらも総じて心からの友達なのに、一緒の空間に同居するとふるまい方がわからなくなる。これは一体どういうことだ。平野啓一郎さんの『私とは何か』を読み返したくなった。

それにしても、前職の同期は「戦友」という言葉がよく似合う。単なる「前職の同期」で括るには、だいぶ寂しい。耳の痛いこともたくさん言われたけど、だからこそかっこ悪いところも見せられる。やさしさだけが愛ではないことを教えてくれる存在である。

5月6日(金)晴れ

ずっと宿泊のチャンスをうかがっていた玉野のKEIRIN HOTEL 10に宿泊し、清々しい朝を迎える。

まず外観がポップでクールだし、館内も随所に細かなこだわりを感じ、胸キュンが止まらない。一緒に宿泊した友達と恋人も「これだけこだわりが詰まったホテルってなかなかないよね」と口を揃える。私はF1観戦が趣味なので、競争に勝つために鍛錬を積む選手の姿を間近で見られるのは、かなり胸熱である。競輪のレースも観てみたいなと素直に感じた。

おもしろかったのは、「なんてかっこよくてかわいいホテルなんだろう・・・」とときめいていたら、このプロデュースを手がけた女の子の誕生日にも「これからもかっこよくてかわいいあなたでいてね」と伝えていた。ここは、私の語彙力が乏しいのではなく、本当に彼女らしい、かっこよくてかわいいホテルなのだと自信を持って主張したい。

朝はのんびりと出発し、数ヶ月前に移住してきた前職の後輩と岡山駅で合流。日本一酔いやすい電車と名高い(?)特急やくもで島根県へ。

島根県は初上陸で、心が弾む。出雲大社は、松の参道がすばらしく美しかった。Wikipediaで知ったことはニワトリのようにすぐに忘れてしまうけど、友達と足を運んで、一緒に学んで、感じたことを共有して・・・という体験はすごくいい。せっかく日本の西にいるのだ。カフェや雑貨屋さんも楽しいけど、週末の遊びとして、神社仏閣巡りも加えていきたい。

夜はいつも通り、ぐでんぐでんに日本酒を飲んだ。この人たちと話していると、どうしてこうもお酒が回るのだろう。

5月7日(土)晴れ

チェックインが12時だというので、ぐっすりと寝て、旅先で連休の疲れを取るという贅沢な過ごし方をした。

島根の松江は、美しい街だった。地方あるあるなのかもしれないが、駅前は閑散としていて、降り立った瞬間寂しさを覚える。でも少し街を外れると、悠々と広がる自然と慎ましい街並みに心癒される。

先週に引き続き、25歳の時に別れた恋人が働く群馬県を訪れて、悪気なしに「何もないね!」と言った自分がフラッシュバックする。とある街を、「何もない」の一言で片付けるとは、随分と雑な表現である。人が住み、営みがあり、木々が茂り、空気が流れているのに、何もないわけがない。ただ、私に何も見えていなかっただけなのだ。

それでも帰りは、後輩と「やっぱり岡山、いいね」という話をしながら帰った。あれもこれも素敵、でもやっぱり私はこれがすき!と思えるのは、なんと幸福なことだろう。

岡山へと戻る特急電車の中で、1年前にニューヨークへと移住した男友達が書いたnoteを読んだ。

これまた前職の同期で、彼とは東京の下町に住んでいた時代にしょっちゅう飲みに行く仲であり、彼がいかにアメリカという地に憧れを抱いていたか知っていた。ニューヨークへと旅立つ時も、親友夫妻と成田空港でエールを送った。

だからこの1年間を綴った文章を読んだ時、彼が遠く離れた異国で、悩みながらも奮闘し、大きく成長していることを感じ、心から尊敬した。

あまりにも未熟で、傷を舐め合っていた頃の私たちはもういないかもしれないけど(いや、まだいるかもしれない)、それぞれが一度孤独になる選択をして、その先でかけがえのない経験をし、それぞれの意味を見つけている。一歩踏み出したからとて苦悩から解放されるわけでなく、選んだ先では、また新しい悩みが続いていく。それでも怠けずに、人生をフルスロットルで楽しんでいる仲間の存在はなんて心強いのだろう。

今年のゴールデンウィークはうんと悲しい出来事があったけど、だからこそ戦友のありがたみを実感できた。これも、やさしすぎた先輩の気遣いに思えてならない。

5月8日(日)晴れ

今日はゴールデンウィークで使った体力を全回復する日。

近所のパン屋さんで買ったホットドッグを頬張りながら、小栗旬の『プロフェッショナル 仕事の流儀』を観る。私は高校生の時、「小栗旬と結婚する!」と豪語していて(就職先のテレビ局で何度もすれ違い恋に落ちる設定。恥ずかしいったらありゃしない)、大人になってからも密かにファンであり続けている。

女友達と話していると、彼はよく「とびっきりイケメンってわけじゃないけど、かっこいいよね」と言われていて、私も同感だなと思っていた(生で見たら鼻血が出るほどかっこいいんだろうけど)。彼には、生き様から滲み出るかっこよさがある。並々ならぬ努力が、彼の謙虚さや「普通」であることを支えているのかもしれない。

今日はひとつ、小さなチャレンジの種を蒔いてみた。どうなるかはわからないけど、岡山をより愛するための試みである。

明日からは仕事が始まる。ここ数年、連休から日常へと戻る感覚が嫌いじゃないな、といつも思う。それほど今の日常が気に入っているのだろう。会社、たのしみ!

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