ピンピンコロリも楽じゃない

バスが停留所をどんどん進んだ。「定刻より早くいっているよ。とんとん拍子に、停留所に、人が居ないのをいいことに、どんどん進むわ。」10分くらい早く到着しいるはずだ。「運転手が怒ってるわけじゃじゃなく、素通りしていくのが怖かった」と優子の言う通り、「狂気を感じちゃう。冷静な殺人者や犯罪者のような感じがしたよ」と謙也もそう思った。まるでサスペンス映画に出てくる運転手のように思うのは、考え過ぎだろうが、そんな不吉な事を考えながらバスを降りて、二人はスーパー銭湯の「おふろの王様」にルンルン気分で入った。優子が足の指を骨折して二週間が経った。「このクロックスもどきなら履いていたく無いの」と白の26センチの男物のサンダルは、痛みが無いようだった。「先日、スーパーの店頭で買ったサンダルが役立ったね。なんか嬉しいよ」と謙也が微笑んだ。

足の痛みのために外出できない。外とのアクセスがないようなものだ。「外気に触れるだけでも、人は豊かな気持ちになるそうだよ。取り敢えず、バスに乗れば、大して歩かずに温泉に着くのが安心だよ」「気分転換に行きたい」と優子も賛同した。「ついでに相鉄沿線のさがみ野に美味しい鳥の唐揚げ屋さんがあるんだ。そこに行こうか」と優子を誘ったら、素直に了解した。

天然温泉と高濃度炭酸泉のコラボのスペースがある。23個もお風呂の数がある中で、ここは、半身浴に効きそうだと謙也は思った。サウナに15分くらい入った後、30分以上、炭酸泉で汗を流した。滝のように汗が出てきた。サウナと炭酸泉の2カ所だけ入って、優子と待ち合わせの時間になった。

「とにかく、唐揚げが4個もあるんだ。ボリュームがすごいよ」と「トリエモン」の説明をしながらかしわ台駅に向かった。かしわ台から横浜方面に向かって次の駅「さがみ野」まで乗ってすぐだ。「ホリエモン」のパクリだが、正式には「鳥衛門」とある。笑ってしまうくらいあざといが、店もおしゃれな感じで、女性店員が3〜4名と男子に店長がいる明るい雰囲気の店だ。「なにしろ、駅から2分と言うのがいい。今日みたいな雨の日は助かる」と謙也がこじつけのように優子に言っていた。

ご飯は大中小の3種類から選べる。「中で」と店員に告げた。「小でも良かったかな」と三択では真ん中を選ぶのが普通だ。「2色唐揚げ定食、お待たせしました」と店員が大きなお膳を運んで来た。「ええ、食べきれないかも」と優子の言う通り、白と黒の唐揚げが2個づつとマヨネーズが付いたキャベツが添えてある。その他にも小鉢が2つ、ご飯、ちょっと大きめの器に入った味噌汁が並んだ。結構に大量だ。「しかも、唐揚げが普通より大きい」と謙也も驚いた。

店内には、男性のサラリーマン2組と若い女性が別々に2組づついた。若い人たちに人気がある感じがした。「テイクアウトもありますよね」と尋ねるとチラシを持って来てくれた。「弁当より唐揚げが食べたい」と息子からの要望で、唐揚げだけを探していると「3色唐揚げセット千円がありますよ」と店員に勧められるままに、それにした。

食べ終わったが、帰りのバスの時刻が中途半端だった。かしわ台からと海老名からに時刻は両方とも2時台だった。「まだ12時50分。どうするかな、どっちにしても時間をどこかで潰さないと」謙也が思案した結果、海老名で時間を潰すことにした。「それでも1時間以上あるから、私は歩いて帰るは」と優子が言う。「俺は、途中で座るような休むとこがないとダメだから、バスを待つわ」と謙也。道路脇の縁石であれば座るが、雨が本格的に降っていた。結局、1時間を駅前のパン屋のイートインでコーヒーを飲みながら待つことにした。

パン屋の中にグレーのフレアスカートに黒のブラウスを着て、黒のレイン物を履いた女がイートインコーナーに入った来た。前にリュックを背負っている茶髪がハゲかかっているショートヘアの女と冴えない中年のサラリーマンといかにも夕飯の買い物にきた主婦がいた。暇を潰すには、本を読んだり、ノオトにメモをしたりする以外、スマホをいじるしかないものだ。

最近、医者に通い始めたら高血圧で糖尿病の気があると診断された。4年も通わずにいたが、優子から「行かないと危ないかもよ」と脅され、「渋々行った結果がこれだ」と嘆く謙也。ただ良い事もあった。銭湯には血圧測定器が備わっているので、測ってみたら、40も下げっていた。「薬の作用ですぐに血圧が下がるのも怖いな。それでも、あのままだったら、ぽっくり逝ってしまったかも」と痛し痒しの状況だ。そんな訳で、理想の死に方、ピンピンコロリも中々難しいのかもと思った謙也であった。

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