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僧侶交え死を語る 滋賀県が第1回死生懇話会

※文化時報2021年3月11日号の掲載記事です。

 生と死について考えるきっかけを作ろうと、滋賀県は6日、「第1回死生懇話会」をオンラインで開催した。浄土真宗本願寺派僧侶で龍谷大学農学部の打本弘祐准教授ら委員6人が、それぞれの立場から意見を出し、三日月大造知事らと語り合った。

 誰もが避けられない死と向き合うことで、限りある生を豊かに生きるための施策を探るのが目的。価値観の押し付けや一定の結論を出すことはせず、自由に語り合うことで、県民らに死生観を深めてもらう。死を真正面から取り上げた会合は、行政では異例だ。

 この日は141人が会合のライブ配信を視聴。打本准教授は、キーワードとして「臨床宗教師」=用語解説=「死生観を養う」「死者と共に生きる」の三つを挙げ、死生観に宗教が果たす役割などを説明した。

宗教者「重要な役割」 三日月知事が意欲

 滋賀県が6日に第1回会合を開いた死生懇話会は、三日月大造知事のトップダウンで設置された。委員には医療・福祉関係者に加えて僧侶も選ばれており、三日月知事は終了後、記者団に「宗教者は重要な役割を果たしている」と明言した。新型コロナウイルス感染拡大でグリーフ(悲嘆)や命の大切さを身近に感じる人は多く、生と死について考える機会を行政が提供する取り組みは、各界から注目を集めそうだ。

 「人間は自分が死ぬよりも、家族や親しい人に死なれる方がつらい」。委員の一人で浄土真宗本願寺派僧侶の打本弘祐・龍谷大学農学部准教授が語ると、他の委員らはうなずいた。

 打本准教授は、死をテーマにした絵本や古典などで死生観を養うことの大切さを説き、「死者は肉体としては会えないが、私たちの心に働き掛けてくれる存在。死者と共に生きることが、社会を豊かに、温かくしてくれる」と述べた。

 死生懇話会の委員は、滋賀県医師会の越智眞一会長▽滋賀県介護支援専門員連絡協議会の楠神渉副会長▽打本准教授▽NPO法人「好きと生きる」のミウラユウ理事▽関西学院大学人間福祉学部の藤井美和教授▽滋賀県立大学人間看護学部3年の青柳光哉さん―の6人。

 越智会長は「生きると活きるの差を縮めるよう尽力するのが医師の仕事」と話し、楠神副会長はACP(アドバンス・ケア・プランニング)=用語解説=の重要性を強調。ミウラ理事は共生や多様性から命について考えたいとし、藤井教授は「死を含めてどう生きるのかを捉えよう」と呼び掛けた。

 青柳さんは、看護師になるための勉強をする中で「死の恐怖とは」「死は悪いものか」「死について確かなことは何か」という根源的な問いを持ったと語った。

210308死生懇話会Zoom

県職員からは賛否

 死生懇話会は、結論を出すことを目指していない。各委員から提示されたキーワードを整理しながら議論を深め、2回目以降は県民らとの意見交換も行いたいという。

 ただ、行政課題として死と向き合うことに、県職員らには戸惑いもある。県は事前に職員へアンケートを行い、約20%に当たる732人から回答を得た。県の事業として死生観を取り上げることに「大事だ」「一定の意味がある」と肯定的なのは382人(52.2%)だったのに対し、「必要性は感じない」と否定的な職員も257人(35.1%)に上った。

 肯定的な理由は「命の大切さを考えることにつながる」「地域福祉のニーズの把握に役立つ」など。これに対し、否定的な理由の大多数は「個人の価値観によるもので、行政が取り組むことではない」だった。
 
 また、自分の業務が死生観と何らかの関係があるか尋ねたところ、「関係ない」が最多の340人(46.4%)に。一方で関係があると考える行政分野は、在宅看取りや自殺対策、いじめ対策、引きこもり対策など、多岐にわたった。

 アンケート結果について、委員からは「コロナ禍で生きていくのが困難な人は増えている。命を個人の問題だと捉えるべきではない」「行政が場を設けて語り合うことに意義がある」との声が上がった。

多死社会 行政も変化

 「『個人的なことだから…』と真正面から語ってこなかった生と死について、社会で共有できないだろうか」。会合の冒頭、死生懇話会を設置した三日月知事は、こう呼び掛けた。

 三日月知事は約20年前、父親を病気で亡くした。「人生は有限だ」と思い知ったことで、「避けられない死を遠ざけず、向き合うことで、生を充実させられる」と考えるようになったという。

 一昨年から死生懇話会の構想を温め、県庁にワーキンググループを作って準備を重ねてきた一方、「コロナ禍で死が身近になった今、本当に開催していいのか悩んだ」とも明かした。その上で、多死社会において「行政の在り方や位置付けが変わったとの問題意識で取り組みたい」と抱負を語った。

 終了後、記者団の取材に応じた三日月知事は「こういう場を持つことは大事だと強く感じた。ていねいに議論していく」と強調した。

 また、宗教と宗教者について、「死後の世界がどうなっているか、老いや病とどう付き合うか、などの点で重要な役割を果たしている」と指摘。打本准教授が紹介した臨床宗教師が宗教・宗派を超えて協働していることに触れ「心に寄り添うという意味でも、大きな役割を果たすと思う」と述べた。

210308死生懇話会知事

死生懇話会を設置した三日月大造知事

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は20年6月現在で200人。

【用語解説】ACP(アドバンス・ケア・プランニング)
 主に終末期医療において希望する治療やケアを受けるために、本人と家族、医療従事者らが事前に話し合って方針を共有すること。過度な延命治療を疑問視する声から考案された。「人生会議」の愛称で知られる。

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