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〈28〉宗教者の嫌われる勇気

※文化時報2022年3月8日号の掲載記事です。

 テレビや新聞では「ロシアが悪」一色の報道がなされている。この状況は怖いものを感じる。もちろん、ロシアの軍事侵攻や戦争を肯定しているわけではない。でも、こういう「念押し」の一文をわざわざ入れないといけないのも気持ちが悪い。

 筆者は政治や経済の話には疎いので解説することはできない。ただ、「ロシアが悪」というのは「私が善」という立ち位置から見える景色にすぎないということは分かる。

 先日、介護職員初任者研修で講義をした。介護の基本をしっかり身に付けるための研修で、飛躍しすぎた話になってしまわないかとヒヤヒヤした。講義の後、主催者に尋ねてみた。「基本的なことを学ぶ時期に、応用の話をしてしまって大丈夫なのでしょうか?」と。すると「そんな心配があるなら三浦さんに講師を頼みませんよ」というお答えが返ってきた。

 昨今、医療や福祉の分野では「多様な視点で患者(利用者)に接する」ということが重視されつつある。多様な視点には、医療や福祉の専門職以外も含まれる。宗教者は大歓迎されると筆者は実感している。なぜなら、大多数の人とは違う視点があるからだ。

 「『私が善』になっていませんか?」これを他者に投げ掛けるのには勇気が要る。相手との関係を無視してやみくもにぶつけるのはいけないが、遠慮して口にしないのも違う気がする。

 宗教者に期待されているのは「気付きのきっかけ」を与えてくれることではないだろうか。そのためには各宗教・宗派の教えに真摯に向き合っている日常が必要となるだろう。

 真宗大谷派難波別院からいただいた今年のカレンダーの2月に「福願う 心の裏に 鬼の顔」とあった。すぐには理解されないかもしれない。でも、こういう言葉を医療や福祉の現場で伝えていくのが宗教者に期待されていることだろう。

 大多数の人が「ロシアが悪」の立場を取っているとき、「では日本や欧米は善なのか?」と投げ掛ける。宗教者の嫌われる勇気が問われる。(三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。21年には一般財団法人安住荘の代表理事に就任した。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。

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