【映画】「フェアプレー」感想・レビュー・解説

面白くなかったわけではないが、凄く面白かったわけでもない、という感じ。そもそも僕には、「パートナー女性の方が先に昇進した」という事実が関係性に悪影響を及ぼす、みたいなことに実感が持てないので(もちろん、そういうことはあるだろうと想像は出来る)、そういう意味でもちょっと遠い物語ではあった。

しかし、僕とは別世界の話ではあるけど、「ちょっとした出来事からどんどんとボタンが掛け違えられていく」という展開はとても上手い。

エミリーとルークは、同じヘッジファンド会社の同僚として働きながら、隠れて交際している。就業規則に「社内恋愛禁止」とあるため、大っぴらには出来ないのだ。所属するヘッジファンドは競争が非常に激しく、「3年目を迎えられる者」がかなり少ないぐらい、実力主義の会社である。

ルークの兄の結婚パーティーの日、ルークはエミリーにプロポーズした。エミリーはそれを受け入れる。また会社では、PM(ポートフォリオマネージャー)だったクインのクビが切られた。クインはパソコンを破壊し、大暴れしながら退場させられる。そしてその直後の立ち聞きでエミリーは、「ルークがPMに昇進する」と知り、すぐさまルークに報告した。2人にとって、絶頂とでも言うべき時だった。

しかしその直後、深夜にボスに呼び出されたエミリーは、自分が新PMに選ばれたことを知る。その報を聞き、ルークは喜んでくれた。しかしやはり、ルークにはやるせない思いがある。ネットでたまたま見つけた自己啓発セミナーが出している高額の教材を買ったりするなど、「エミリーに先を越されてしまった」という思いに蓋をしつつ無視できずにいる。

社内では相変わらず、2人の関係は秘密だ。そしてルークは、エミリーの部下となった。エミリーは、2人ともPMになれば外野の口を封じられる、と考える。そこで、PMになった自身の立場を上手く使って、ルークをPMに引き上げる努力をしようとするが……。

やはり僕の感覚では、「ルークは素直にエミリーの昇進を受け入れればいいのに」と感じるし、またエミリーに対しても「ルークを昇進させてあげる、みたいなことは言わない方がいいと思うんだけどなぁ」と感じた。このすれ違いが、少しずつ大きくなって亀裂に変わっていき、最終的にはどうにもならないところまで突き進んでしまう、という展開はなかなか見事である。

観ながら考えていたことは、「これは『強い立場の女性』の生きづらさの物語」だということだ。

一般的に「女性の生きづらさ」は、「弱い立場の女性」をモチーフに描かれることが多いように思う。それはもちろん描かれるべき物語だと思うが、一方で、「未だに『男性優位』みたいな偏重のある社会における、『強い立場の女性』の生きづらさ」もまた存在しうる。

少し違う話だが、僕はよく「美人は大変だ」と考える。「美人であること」が、本人にとって「プラスの何か」をもたらしているなら、それはとても恵まれた状況だろうが、そうは感じられない人もいる。中には「美人であること」が「マイナスの何か」しかもたらさない、みたいな風に感じてしまう人もいると思う。

しかしそういう悩みは、なかなか表に出せない。「恵まれた者の贅沢な悩み」だと受け取られてしまうからだ。本人は真剣に悩んでいても、そのことはなかなか周囲に伝わりづらい。

そして、本作におけるエミリーの立場もまた、なかなか「辛さ」が理解されにくいものだろう。もちろん、彼女はその立場を「努力」によって勝ち取ったわけだが、しかし、「不当に恵まれすぎている」と受け取る人もいるだろう。そしてそういう受け取られ方がされてしまえば、どんな悩みを抱いていようが、それを外部に打ち明けるのは難しくなる。

本作では、「エミリーが他者に悩みを打ち明ける困難さを感じる」みたいな描写はほぼないのだが、ただ、こういう「強い立場の女性」の物語が描かれることで、「そういう『辛さ』も存在するのだな」という理解に繋がりうることは良いことではないかと思う。

しかしホント、やっぱり僕には、「パートナー女性の方が先に昇進した」という事実がお互いの関係性を悪化させる、という状況がピンと来ない。「祝福したったらええやん」と思ってしまうのだけど、ただこういう物語が描かれるということは、ルークに共感できるという人が一定数いるっていうことなんだろうなぁ。

僕は別に「共感できなければ良い評価が出来ない」なんて思うタイプではないし、「共感は出来ないけどメチャクチャ良い」と感じる物語もあるのだけど、『フェアプレー』はちょっとそういう感じではなかったかなぁ。いや、決してつまらなくはない。

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