【映画】「シチズンフォー スノーデンの暴露」感想・レビュー・解説

映画を観ながらずっと、もし自分がスノーデンと同じ立場だったら、同じことが出来ただろうか、と考えてしまった。

『成るようになるさ。リスクもよく知っていたし。
逮捕されるならされます。
公表すべき情報を公表できたのです。
僕に何があっても、報道を続けてください』

彼は、自分がどうなろうとも、自分以外の多くの人びとの公益のために動いた。

『情報源である僕を守る必要はありません』

自分にどんな未来が待っているのか、最悪の想定をしながら、それでも彼は行動をした。

『出来れば、僕の存在を発表して欲しい』
『僕は、コソコソしたくないのです。する必要がない。
堂々と出る方が強力だと思う』
『名乗り出るので痕跡は消しませんでした』

匿名での告発ではなく、顔をさらし、あらゆる不利益を被ることを覚悟で、アメリカの機密を暴露した。

『これまでのような家族の絆は、保ち続けられないでしょう』
『ツラい状況ですよね。恋人の僕に、もう帰れないかも、と言われたんですから』

迷惑を掛けないために、自身の計画は誰にも伝えずに行動に移した。

『マスコミは人格に焦点を当てすぎます。論点をズラされるのが嫌なのです。
話の中心は僕じゃない。
このことを公にするためなら、何でもします』

内部告発者として表に出る覚悟をしながら、それが報道の質を曲げてしまう可能性についても考慮に入れている。

『僕は何を公表すべきか否かを決めたくはない。だから記者の方に見て欲しかった。
僕には確固たる意見がある。でも、僕の意見は外して、公益を優先したい』

客観性を保つために、彼は、自分でネット上に情報をリークするやり方もあったはずだが、マスコミを通じてリークする。

『何だか不思議な気分ですよ。
1時間後に何が起こるか分からない。
恐怖と同時に解放感がある。
とにかく行動するのみです。』

映像に映るスノーデンは、常に冷静であるように見える。

僕がスノーデンと同じ立場だったとして、きっと同じことは出来なかっただろう。
せめて出来ることは、組織的な犯罪に関わってしまっている自分をその組織から引き剥がすことぐらいだろう。

スノーデンが暴露した内容がすべて真実かどうか、それは僕には調べようがない。ただ、細部はともかく、「アメリカが世界規模であらゆる通信を傍受している」という大枠についてはまず間違いないだろう。それらを、可能な限りの物的証拠と共に暴露し、世界中の目を開かせたスノーデンの行動は、称賛に値する。

『これはSFではない。現実です』

そう。これは現実だ。

2013年6月3日月曜日。本映画の監督であるローラ・ポイトラスと、英ガーディアン紙の記者であるグレン・グリーンウォルドの二人は、香港である人物と会うことになった。
その人物は、NSA(アメリカ国家安全保障局)の内部告発のためにローラに以前から接触を図っていた。ローラ・ポイトラスはアメリカの監視対象者となっており、その境遇からその人物から情報提供相手に選ばれた。

彼は、エドワード・スノーデンと名乗った。ブーズ・アレン社からNSAに出向しており、システム管理者を任されていた。彼は最高機密にまでアクセスが可能で、NSAがどんな手段で何をしているのかを知り抜いていた。
スノーデンの暴露は驚くべきものだった。NSAは、アメリカ国民だけではなく世界中のあらゆる人を対象に膨大なデータを収集している。すべてのデータ通信、無線通信、センサーがついていればアナログ通信まで傍受可能な監視プログラムを持っており、世界中の政府や企業がそれに関わっている。アメリカ政府は、グーグル・アップル・マイクロソフト・スカイプなどのインターネット関連企業9社のサーバーに直接侵入している。AT&Tは1日に3億2000万件もの通信データを提供している。NSAは1秒間に125ギガバイトというとんでもない量の情報を収集している。かつてNSA長官であるアレグザンダーは、NSAが通信を傍受していることを否定していたが、スノーデンはそれが事実であることを明らかにした。
きっかけは、9.11のテロだった。9.11のテロ後に制定された「愛国法」の名の下に、政府はテロや犯罪に関わるとは思えない人々の情報まで勝手に収集するようになっていく。
『史上最大の米国民への人権侵害』
グレンが第一報を報じて以来マスコミで報道が加熱した。その中で、スノーデンが暴露した事実を、あるマスコミがそう評した。
自由とは何か?それはどこにあるのか?国家と国民の関係はどうあるべきか?
僕らが知らないところで、僕らの自由は奪われている。ふと気づいた時には、すっかり自由が奪われていた、なんていうことだってあるかもしれない。
僕らは、そんな世界の中で生きているのだ。

非常に興味深い内容だった。

映画としてどうなのか、と聞かれれば、答えるのは難しい。何よりも、面白いとか面白くないとかで評価するような映画ではないだろう。

描かれる内容は、とにかく衝撃的だ。
この映画で描かれていることの大枠、つまり「アメリカが世界中の通信を傍受している」ということ自体は知っていた。だから、そのことに対する驚きはない。しかし、各国政府や超有名企業などがその企みに関係しているという事実には驚かされたし、具体的にどのようにそれがなされているのかという詳細も興味深い。

しかしそういう、暴露された内容についても興味深いのであるが、この映画の中で最も興味深いのはスノーデンという人物についてだろう。暴露された内容については、2013年にガーディアン紙が報じて以来様々に取り上げられてきただろうが、スノーデン本人についてここまで迫ったものは皆無だろう。なにせ、この映画の監督が、内部告発者としてのスノーデンに会った最初の人物なのだから。

スノーデンは、ずっと冷静だ。自分がしようとしていることの重大さを理解し、それがどういう結果を引き起こすのかも理解し、逮捕される可能性さえ考慮した上で、それでも行動に移した。アメリカという超大国を相手に無謀な闘いを挑んだ。
そして映画を観る限り、その動機は、「多くの人々にとって有益であるはずの情報を公開することそのもの」にあるように思える。スノーデンなりに、何らかの秘められた動機が隠されていたのかもしれないが、映画を観る限りそういうことは感じられなかった。

その高潔さみたいなものが、僕には凄いと思える。先程も書いたが、自分だったら、不正を行っている組織から離れる、ぐらいのことしか出来ないだろう。あらゆる不利益を被ってまで内部告発をしようとするスノーデンの意志と行動力、そしてそれを支える冷静さ。映画全編から、僕はそうしたものを感じて、その凄さに圧倒される思いだった。

スノーデンは、UNHCRの香港事務局を通じて亡命申請をし、アメリカ政府にパスポートを無効にされたためにモスクワの空港に40日間足止めされた後、政治亡命者として1年間ロシアへの滞在が許可されたという。監督のローラとはその後もやり取りを続けていたようだし、映画の最後には再度ローラと会って話をしていたが、今どこでどんな暮らしをしているのだろうか。結局、スノーデンの告発は、世界を一変させるほどではなかったのだろう。国民は忘れ、政府は傍受を続ける。そんな風に世界は動いていく。勇気ある行動をしたスノーデンがそれなりの生活環境の中にいられることを願っている。

『これは僕1人の問題じゃない。全国民の問題です』

これは日本国民も例外ではない。グーグル・スカイプ・フェイスブック・ツイッターなどを一切使っていないという人は、今の世の中ほとんどいないだろう。グーグルで検索した言葉や、フェイスブックに書いたこと、スカイプで話したことなどは、すべてアメリカに情報収集されていると考えていいだろう。日本政府も、NSAの情報収集に協力していないなどとは言い切れないだろう。

僕らは、そんな世界に生きている。
ある程度は諦めるしかないのだろうが、便利さと引き換えに自分が何を失っているのかを意識して生活する必要があるのかもしれない。

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