うーむ、ちょっと何とも言えない映画だったなぁ。冒頭からしばらく、物語の意味がイマイチ分からず、自分の中で「ウトウト」のスイッチが入ってしまった。それから、中盤過ぎぐらいまでは、かなりウトウトしながら観ていたのだけど、それにしても、うーんという感じだった。

相変わらず僕は、ストーリーなどほぼ知らないまま映画を観るようにしているので、冒頭からしばらく、かなり謎展開が続いた。まず、ヘアメイクアップアーティストの女性が、とにかく喚いている。理由は良く分からない。ただ、彼女の喚きを聞いていると、次第に、「今はヘアメイクアップアーティストの大会中であること」「まさにその最中に、優勝候補の1人が死体で発見されたこと」が分かってくる。で、「犯人は誰なんだ」みたいな話をしているのかと思いきや、割とそうでもなく、「優勝するために頑張って来たのにクソっ！」みたいなことをひたすら喚いている。

しかも、とにかく観客向けにはほぼ何の説明もなされない作品なので、出てくる登場人物が一体誰なのか分からない。まあ、出てくる女性たちの多くが「ヘアメイクアップアーティスト」か「モデル」かであることは分かる。しかし、彼らの会話には、その場にいる人物なのか、あるいはそうでないのか分からないが、とにかく色んな人物名が出てくる。誰の名前が何なのか、ほぼ説明されないまま話が進むので、会話が誰のことを言っているのか、しばらくの間全然理解できない。徐々に、なんとなく登場人物の名前が頭に入り始めるのだけど、それまでは結構、「彼女たちの関係性を理解すること」や、「出てくる固有名詞を覚えておくべきなのかどうか」の判断が難しい。

これから映画を観ようと思う方は、公式HPに人物関係図が載っているので、ざっくりとでも頭に入れてから観に行った方がいいかもしれない。

映像は「ワンカット風」に撮られている。「風」と付けたのは僕の憶測で、本当に最初から最後までワンカットで撮っている可能性もゼロではないと思うが、さすがにいくつかシーンを割っているだろう。映画『1917』みたいな感じだと思う。

そして、そういう構成の映画なので、映像は「歩いている人物の後頭部を後ろから撮影する」みたいなショットが多い。特に、登場人物が別の場所に移動するシーンなんかは、ほぼこういうショットだったと思う。これはもちろん、「誰に注目しているのか」が分かりやすくていいのだが、しかしそもそも「注目している人物が誰なのか」を把握するのにかなり時間が掛かるという難点がある。中盤から後半に掛けてはかなり状況が把握できるようになってきたが、前半はちょっとかなりキツかった。

カメラはかなり大きく動くので、仮に「風」だとしても、ワンカットで撮影していくのはなかなか困難だったと思う。ヘアメイクアップが舞台だからそこら中に鏡があるので、撮影者が鏡に映らない位置を把握しなければならない（まあ、映ったとしてもCGで消してるのかもだけど、角度的には、撮影者が映ってなくても自然な感じに見えた）。乱闘のシーンがあったり、火が燃え上がったりするシーンもあるわけで、そのタイミングやカメラの位置取りなど、かなり緻密に設計しておかないと上手くいかないだろう。

また、撮影技法として今もどうやったのか分からないシーンがある。ある人物を追いかけて、カメラが屋外に出た後、カット割り無しでそのままドローン撮影のように上空へとカメラが上がっていく。これはまだいい。何かしらやり方はあるだろう。問題はその次だ。カメラは、2階の全面ガラス張りの廊下に立ち外の様子を見ている男性を映し出すのだが、そのままカメラが屋外から「ガラスをすり抜けたようにして」屋内に入るのだ。

これはなかなか不思議なシーンだったなぁ。どうやってるんだろう。僕が思いつくアイデアは、「実は廊下のガラスが一部外されており、後でCG処理によって、そこにガラスがあったかのように加工した」という感じなんだけど。撮影しているのが実在する建物だと厳しいだろうけど、映画撮影のために建てたセットなら十分やれるやり方だと思う。

あと、演出的に面白かったのは、ワンカットで撮影を続けているのに、「時間経過」が描かれている点だ（僕の勘違いでなければ、連続していない時間経過が描かれているはず）。『1917』では、「主人公が気を失った」みたいな演出で、ワンカットながら時間経過を表現していたと思うが、本作では、それまでとシームレスに映像が繋がっていながら時間経過が描かれており、これはなかなか斬新な演出だなぁ、と感じた。今までそんなの観たことない。

個人的には、ちょっとうーんって感じの作品だったのだけど、映像的にはなかなか挑戦的だし、ヘアメイクなどのビジュアルもかなりインパクトがあるので、そういう興味で観るならアリかもしれない。