【映画】「リング・ワンダリング」感想・レビュー・解説

なかなか奇妙な物語だった。好きかどうかという話をするなら、「嫌いじゃない」という感じかな。雰囲気的には好きな映画だったが、「もう少し何かあってほしい」と感じてしまう部分もあった。

内容紹介をしようと思うが、意図的にわかりづらく書こうと思う。映画を観ていない人が読めば、どんな物語なのかイマイチ想像できない文章にするつもりだ。

物語には大きく、3つの要素が含まれている。

漫画家を目指しながら、建設現場の作業員の仕事を続ける草介は、絶滅したニホンオオカミを題材にしたいと考えている。しかし絶滅しているが故に資料も少なく、上手くイメージができない。そんなある日、仕事場で土を掘っていると、地層から何かの骨らしきものが出てきた。どうやら、動物の頭部のようだ。それこそ、ニホンオオカミくらいの大きさだろうか。現場監督に見つからないようにこっそり頭部を持ち帰り、その頭部の骨を見ながら漫画の原稿を書き進めていく。

ミドリは、一週間前にいなくなった飼い犬・シロを探しているが、まったく見つからない。そんなある夜、川辺で1人の男性と出会う。少し変な格好をしていて、初めは泥棒かと思ったが、転んだ際に切れてしまった鼻緒を直してくれた。足をくじいて立ち上がれないミドリをおぶって家まで送り届けてくれる。実家の寫眞館は、レンズや金属を供出させられたため、開店休業状態。寫眞館からカメラを奪ったら、何も残らない。お礼にと食事に誘ったその男性は、父が大好きなどじょう鍋を恐る恐る食べ、冬なのに「今日は花火ですよね?」と変なことばかり言っている。

雪深い山奥で、家畜が食い荒らされた。熊かもしれないが、銀三はそうじゃないと分かっている。あいつらが「お犬様」とか呼んでいやがるあいつだ。間違いない。しかし銀三の意見は聞き入れられない。どころか、もう村から出ていけと言われる始末だ。梢がいたから可哀想に思って村に置いてやったのだ、そんな一人娘を自分が作った罠で殺し、それでいて一人で山をほっつき歩いていた方が悪いなんて言うやつはでていけ。あぁいいさ、出ていってやる、俺はどうにかしてあいつを仕留めてやるさ……。

というような話です。

凄く偉そうな書き方になってしまうけど、「やりたいことはとても分かる」という感覚の強い映画だった。テーマとか、そのテーマの見せ方・組み込み方とか、とても上手いと思う。けど、じゃあ長編映画作品としてどう? と聞かれると、うーんどうなんだろう、という感じがしてしまう。

もちろん、逆の印象を抱く人もいると思う。映画全体から「なんか良いな」と感じる。そしてそれから、「なるほど、こういうテーマが内包されているのか」と納得する、という順番の人もいるだろう。

その辺り、とても微妙なラインにあるように僕は感じた。僕のように、テーマが前景に感じられてしまえば、ちょっと鼻につく感じがあるだろう。しかし、テーマが後景に見えれば、非常に印象深い作品に感じられると思う。僕としては、もう少し何かがあれば、テーマが後景に感じられた気がするので、その点は少し残念だった。

主演の2人、笠松将と阿部純子はとても素敵だった。2人とも、無表情で画面の中にいても成立する感じがある。それは顔だけではなくて、全体の雰囲気がそうさせてるのかなぁ。特にこの映画では、笠松将のセリフか極端に少ない。草介が存在しなければ物語は動いていかないのだから、そういう人物にしてはもの凄くセリフが少ないと言えるんじゃないかと思う。

ただそれでも、物語的にも画的にも成立している感じが凄くある。僕としては、この2人の存在感で最後まで興味深く観ることができたと感じるほどだ。

なんとなくだが、「リング・ワンダリング」という単語が、この映画制作におけるかなり初期段階から存在していたような気がする。少なくとも、「こういう物語でいこう」と決めた後でタイトルが決まったとは想像できない。「リング・ワンダリング」という言葉がすべての着想の始点にあるなどとは思わないが、かなり早い段階でこの「リング・ワンダリング」という単語を捕まえていたのではないかと思う。

このタイトルに込めた意味をすべて理解しているなどというつもりはないが、なんとなく、映画のタイトルと作品の内容が非常に共鳴し合っていると思う。とにかく、映画のタイトルがとても素敵だ。タイトルで勝っている映画は、強いと思う。

個人的には、今ひとつ突き抜けない作品ではあったが、観て良かったと思える映画ではある。

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