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いつの間にか海に流れ出ている。

応援していると言ったら少し暑苦しいかもしれないけれど、作り手からなるべく近い所から、モノは買いたいと考えている。

本の情報を得るため、昨年からSNSをフォローし始めた、荻窪にある『本屋 Title』。一度も訪れたことはないが、情報を得たお店から買うのが仁儀と感じ、春頃に数冊、ウェブショップで買い物をした。その一冊に、店主の辻山良雄さんが書いた『本屋、はじめました 増補版』も含まれていた。今までに読んだ"本屋を始めた人たちの本"は、大型書店との共存や取次との関係性など、手に汗握る展開も多く、(他人事ながら)どれも楽しく読むことは出来ていたが、この本は少し違っていた。物腰柔らかな語り口により、店を興すということの大変さよりも、為人と人生観が伝わって来たからかも知れない。

そんな辻山さんの新刊『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』が発売されることを知り、『本屋 Title』のウェブショップで注文。(消費者としては送料無料に越したことはないけれど、無料ということはどこかから削られている、と考えるととても怖い気持ちになる。)現在、読んでいる途中の本も多数あるが、到着した夜から読み始める。本屋さんの日常、流れる時間、その中での気付き、一人の人生。ゆっくり読みたかったのだが、一晩で読み終えてしまった。

読むのが止まらなくなるというのは、決して全速力で走り続けてゴールテープを切っているわけではなく、穏やかな川の流れに乗り、オールは漕がずとも、いつの間にか海に流れ出ている感覚である。(漕いでも漕いでも進まない、実は遡上しようとしていたということに気付くような本もたまにある。)良い文章だな、という感覚は人それぞれだと思うけれど、多くの人と同じ気持ちで河口で会えたら嬉しい。

星野道夫、石川直樹、若菜晃子。手放さずに本棚に並べてあるのは旅作家のものが多いけれど、この本も不意に開きたくなる一冊になった。


小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常:辻山良雄(※以下幻冬舎HPより引用)

まともに思えることだけやればいい。
荻窪の本屋店主が考えた、よりよく働き、よく生きること。
効率、拡大、利便性……いまだ高速回転する世界に響く日常エッセイ。

荻窪に本屋を構えて5年。本を並べ、客の手に渡るまでを見届ける日々から見えること。

「いまわたしの手元には、『終わりと始まり』という一冊の詩集がある。どこかの書店でこの本が並んでいる姿を目にすると、わたしはそこに、その店の良心を感じずにはいられない」
「Titleに並んでいる本は声が小さく、ほかの本の存在をかき消すことはないが、近くによってみるとそれぞれ何ごとかつぶやいているようにも思える」
「『あの本の棚は光って見えるよね』。書店員同士であれば、そのような会話も自然と通じるものだ」……。

本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは———。

●写真:齋藤陽道

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