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「この役立たず」からの「トイレットマン」

これは、12月にライターの間で物議をかもしていた、ロンドンブーツ 田村淳さんのツイートで思い出した10年以上前の話。


突然ですが、「この役立たず」と誰かに言われたこと、ありますか?
私はあります。

もう10年以上前、派遣社員としてあるメーカーで営業事務をしていた時のこと。そのメーカーは工業用のパイプやホースを製造していて、工務店などに卸していました。

私はホースの担当で、FAXで得意先から流れてくる注文書に沿ってPC入力し、工場に発注をかける担当。朝出勤すると毎日FAX注文が大量に溜まっていて、かなり忙しい仕事でした。
けれど、悲壮感はゼロ。長年勤めている女性の先輩達はみんな面白く、ものすごいスピードで画面を見てキーボードをタッチしながら、冗談を言って笑い合っていたものです。 


そんなある夏のこと、その注文はやってきました。

実は、工場への注文は時間に制限があり、15時を過ぎたら翌日に回すのが決まりでした。当日オーダーされたサイズに商品をカットして出荷するには、量と人手に限りがあるからです。

でも、私が担当するホースでは、締め切り時間を過ぎてからの発注が日常茶飯事。得意先に無理を言われて、なんとか工場にお願いして出荷していただいていたのです。だからよく、当時いらっしゃった厳しいおじいさん社員に怒られていました。

その日来た注文も、締め切りの15時を過ぎてから。
かなりの上得意先からでしたが、量があまりに多く、とても無理を言えるものではありませんでした。

だから、お断りのお電話をかけたのです。

しかしその得意先の、(声のイメージは)淡路のり子さんのような女性専務は、「いつも無理を聞いてくれているじゃないの」「お客様に言われたから今日だしてよ」と引き下がってくれません。

 
「やってよ!」
「無理なんです」

「やりなさい!」
「できません」

押し問答が5分ほど続いて、最後に飛び出したのが

「この役立たずがー!!!!!」

という言葉でした。
いや、言葉というか、もはや絶叫笑。

  

今の自分が聞いたら、「いや、時代劇みたいやん」と思わず吹き出していたに違いありません。

でも、当時はまだ20代。

それはそれはショックで、気づいたらそうっと受話器を置いていました。
そして給湯室に駆け込み、号泣したのです。

 
何故泣いたのか、理由はよく分からない。
でも今考えると、人格まるごと否定された気がしたのかも知れません。

 

ロンドンブーツの淳さんが12月にツイートされたのは、

「自分で答えを決めてから取材に来るライターさんの取材がしんどくて…何を答えても自分のゴールの型にはめる…準備してきた質問だけをぶつけてくる…準備は大切だけど現場で臨機応変に質問ができないライターさんは取材をその場で断ることにしました…読者、ライター、僕自身の為に…ごめんなさい」

という言葉でした。

それを見て、全くシチュエーションは違うけれど、
「こちらが何を言ってもきちんと向き合ってもらえない」のは、あの時と同じなのではないかと。それは芸能人とか取材とか言う前に、人として本当にしんどい。だからそんな取材なら、断ってもいいのでは、と。


 淳さんのつぶやきを受けて、ライターさんのつぶやきの中には、

「取材を中断したらライターはギャラをもらえないし、取材先までの交通費も被らなければならなくなる」「仕事で取材受けているのだから、芸能人は責任を持って最後まで取材を受けるべき」

というような批判もありました。


でも、そこまで会話が成立しない中で、人は我慢しなくてもいいし、するべきではない。厳しいようだけど、中断される事態にもっていったのは、ライター側の責任なのではと私は思います。

なぜなら、あらかじめ調べて向かっても、想定した答えが返ってこないのは、現場ではままあることで。ライターはそれを受け止め、たとえものすごいボール球が飛んで来ても、さりげなく本テーマに戻さなければならない。一方で時には、テーマそのものを軌道修正する臨機応変さもスキルとして求められる仕事だと思うから。
相手に、「自分の話をきちんと聞いて質問してくれていない」と思わせてしまった時点で、悲しいけれど力不足だったのではないか。

だけど、きっと何年もやっているライターなら、相手が退席まではいかなくとも、「負けた」と感じる試合(取材)がきっとあるはずで。
もちろん自分も、ご多分に漏れずでした。

その悔しさがあるから今がある。
だから、来年も鍛錬しよう。

そんなふうに、改めて自戒した出来事でした。 



ちなみに給湯室で号泣し、涙と鼻水でドロドロになった私は、ストックとして置いてあったトイレットペーパーで顔を拭って仕事に復帰。

その顔のあちこちにトイレットペーパーがへばりついていたため、それから数ヵ月の間、「トイレットマン」というあだ名でいじられ続けたのでした。


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