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ディフェンス

ナボコフの『ディフェンス』を読みました。

面白かった〜。
まず前書きの切れ味が最高で、さすがナボコフだな……(笑)と笑ってしまった。

『ディフェンス』はチェスの物語ですが、じつのところわたしは、チェスについては殆ど何も知りません。
実力といえば、iPhoneのチェスゲームアプリにおいて、相手がレベル1の敵であっても引き分けになってしまうほどの最弱プレイヤーです。


さて、いささか興奮しながら本編を読み終えて、若島正さんの解説を読みました。(ナボコフ愛に溢れているなと思いながら。)この作品も蝶から生まれたんですね〜。『ロリータ』でも、最後の名シーンはナボコフが新種の蝶を捕まえた場所だと書いてありましたね。

蝶といえば我が家には、息子の誕生に際して役所から貰ったレモンの木があります。
春になるとアゲハ蝶がやってきて、そこに黄色いタマゴを生みつけていきます。やがて孵化した幼虫どもが貴重な葉っぱを食い尽くしていくのですが、これまでのわたしは、ポケモンのキャタピーみたいなその幼虫たちを見かけるやいなや、憎しみを込めてデコピンで弾き飛ばしていました。

ですが、まあ、これからは一片の慈悲を注いでやらんこともない。こうしてナボコフの小説を読めるのが、お前たちのお陰というならばな!

と、冗談はほどほどにしておき。

過去のやさしい記憶、悪臭を放ち続ける幼少期の人間関係、永遠の対戦相手である「運命」との戦い、混沌とした人生に差し込む一縷のやわらかな光、『ディフェンス』は、まるで玩具箱のように沢山の魅力が詰まった小説でした。

ナボコフはほんとうに、登場人物たちを取り巻く風景を優しく柔らかく描きますね。
ところどころですけど、ああ、ここに力をいれてるんだな、という箇所が読み手に伝わってきます。

それと、以前読んだ『ロリータ』と共通するワードがいくつかあって、それらの単語は、ナボコフの人生にとって深く印象付けられた何かなんだろうな、と思わされました。たとえば、何かと叔母さんの世話になりがちだったり、歯痛を原因にしがちだったり、大切なものを隠しがちだったり。



余談なのですが、わたしはルージンのように空想の世界が現実を上回ってしまうことがよくありました。(今は寛解しつつあります)

『ロリータ』のハンバートもそうですが、この手の主人公を見て(読んで)いると、ひどく親近感を覚えます。だからナボコフの文章が好きとか、そういうわけではないんですけど。

最後にルージンがとった行動も、他人から見ればきっとどうしてその結論に至ったか分かりづらいと思うんですけど、本人は本人にしか分からない世界を生きていて、そこで誰にも理解されずに自ら作り出した幻影たちによって苛まれ続けているということが往々にしてあります。

わたしたち患者は、どうも救われたがらない傾向にあるようです。ルージンも結局はチェスに戻ってきましたね、望むと望まざるとに関わらず。魂の深いところで結びついていて、いっとき逃れられたとしても、どこまでも追いかけられると知っているのか、はたまた突き詰めたその先の光を見てみたいのか。

まあ、フィクションと現実を同じテーブルに並べて語るのは、ナンセンスな話でしょうけど。

さて、『ディフェンス』と併読しながらも、ページが止まっていたゼンブラ国のお話を読み進めましょうかね。

キンボート博士がどんな註釈(という名の物語)を展開してくれるのか楽しみです。

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