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アンジー。fiche a hocht

ビーノは、夕飯が終るとはやばやと自分の部屋に引き上げてしまった。
薄暗くなり始めた頃疲れきった様子で子犬と一緒に帰ってきて母親に叱られていた様子や、昼の分も食べるように言われて大きなソーセージと格闘していた様子を、僕は覚めたような少し意地悪な視線で見るようにしていた。
再会して以来テンションの高いビーノに流されていたというか僕の気持ちも舞い上がり気味だったような気がするし、だって、落ち着いて考えなきゃ、だよ。
ビーノが部屋に引きあげた後、ショーンに誘われてテレビを見ながらお酒を飲むことになった。
言葉はわからないけど主人公の情けないのはよくわかった。やることなすことポンコツな結果になっていく。今の僕と変わらないんじゃないか。こんな遠くまで来てもまだ自分の気持ちがわからないだなんて。
ドラマを見終えてビーノの部屋に入ったとたん、大きなため息がでた。
ビーノはベッドの端にちいさくなって眠っていた。ビーノの頼りない小さな寝姿は、僕が置き去りにしたアンジーを思い出させた。
セジュ?
ごめん。起こした?
ビーノは起き上がりぼんやりと僕を見た。
ううん。寝てない。疲れたしすぐ寝れそうだったんだけど。なんか。
もっとこっちに寄らないと落っこちちゃうよ。
んー。セジュもう寝る?
黙ってベッドにもぐりこんだ僕の肩にビーノは顔を寄せた。
セジュ。お酒飲んだの?
あ、うん。ショーンと一緒に、テレビ見ながら少しね。
おいしかった? 
うん、まあ。もう寝るよ。
セジュ。僕、
ん。
セジュの匂いすごく好き。
匂いだけ?
わかんない。
ふと、思いついてビーノの顎を手にししたんだけど。
酔っ払い、やだ。
って逃げられた。
ジニとはしてたくせに。
ジニとはだって、あれは。でもジニはだって。ジニは。
それきり静かになってしまった。
え、そこで寝ちゃうの。もう。寝る前に口にする名前が、僕以外だなんてやなかんじだな。


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