ビーノの写真が少ない。五人で写っている写真が一番目立つところに飾られているけど、ビーノの子供の頃の写真がない。あ、でもケイと同じ施設にいたんだっけ。そういう家族の微妙なところって聞いちゃいけない気がする。でも知らないと言ってはいけないことを口にしてしまいそうな気もする。僕の手元にもフタを開け閉めできるような何かないだろうか。
だーれーだ！
僕の後ろに立つまでもずっと歌ってたのに、誰だもなにも。
ビーノ！髪乾かしたばっかりのビーノ。
当ったりー。セジュってすごーい。
ビーノは僕の顔から手を離すと腰に腕をまわして抱きついてきた。
背中にビーノの顔があたる感覚がする。
セジュ、いい匂いする。ね、ママ、セジュ、すごくいい匂いがするの。
あらそうなの。
彼女は僕の匂いをかぐそぶりをしてからビーノの、匂いをかいだ。
私の息子は匂いが足りていないみたいだけど、クリームはちゃんとを塗ったの？また痒くなっても、知らないわよ？
ビーノはぴったりと体をくっつけて僕に抱きついている。ビーノにそっくりの母親の顔がすぐそばにあって、この状況から逃げたい。誰か。
ビ、ビーノの写真が少ないですね。
自分でも顔が赤くなりそうなくらいの素っ頓狂な声が出た。
ああ、このこねえ、写真を嫌がるのよ。この一枚もやっとだったわねえ。
だって、変な顔になるもん。
たしかにふてくされた手配写真みたいな顔で写ってる。
僕と撮った時はまあまあいい顔してたのにね。
ポケットからスマホを出しながら体の向きを変えた。
ほら、この時の、すごくかわいい顔してるよ。
なつかしいな。アンジーがスマホ買ってもらったって喜んでた時のやつ。
ビーノは
え、だめ。と手で隠そうとした。が間に合わずに母親がぐいっと覗き込んできて
あらま、と言って僕とビーノの顔をかわりばんこに見てる。
ま、まあ、女装した息子の頬によく知らない男がキスしてるんだもんな。あらま、だよなあ。