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アンジー。fiche a cúig

目が覚めるとずいぶん明るくなっていた。ビーノはいない。
洗濯物を持って部屋を出た。
キッチンに行くと母親のアンジーがテーブルの上でなにかをこねている。彼女の鼻歌。昨日、ビーノがずっと歌ってた曲だ。
おはようございます。
あら、おはよう。よく眠れたかしら。
あ、はい。ありがとうございます。
洗濯をするのしないの、のやりとりをしながら母さんのことを考えた。いつもキッチンで音楽を聞きながら料理してるんだ。もし僕がビーノを連れて帰ったら、母さんはビーノをやさしく迎え入れてくれるだろうか。僕が男の人を好きだなんて言ったらショックで倒れちゃうよな。きっと。
あれ、うん?僕、ビーノが好き?あれ、あれれ。
ビーノは?ビーノはどこですか。
あのこは今日、畑仕事をしてるはず。飽きて犬と遊んでるかもしれないけど。
ねえ、もしよかったら、今日は私の手伝いをしてもらえないかしら?パイをね。たくさん作らないといけないの。作っても作ってもあの子が食べてしまうから追いつかないのよ。あ、ごめんなさい。まず朝ごはんよね。
ラム肉の入ったシチュー。これは昨日の夜と同じ。それと、ちょっと変わった感じのするパン。ビーノほどじゃないけどジャムをたっぷり塗ってみた。
甘いものは好き?このパイは気にいるかしら。
彼女の持っているボールにはドライフルーツとナッツが入っていて、そこからお酒の匂いが漂っていた。
あ、あのパイ。きっと、いつだったか食べた、あのアイルランドのパイだ。

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