見出し画像

ニシダ著『不器用で』を読んで

スマホで文章を打つのは苦手だ。
いまいち思考と直結していないし、最終的に俯瞰で見ることもあまりできないように思う。
が、ここはニシダに倣ってスマホで打ってみようと思う。(ニシダは文章をスマホで書いてから清書しているらしい)

はじめはお笑いコンビ・ラランドのファンだからという理由だけでこの本を知った。
ラランドのファンになったのは邪な感情が大きいが、ちゃんとネタも出演したテレビ番組もネタも追っている。
そんなラランドのニシダが本を出した、読書の秋っつーことで久しぶりに小説でも読んでみるかみたいなテンションで手を出した。

前評判として、ニシダは相当な読書家でしかも純文学好き。そして千原ジュニアが『不器用で』を褒め称える動画を見ていた。

動画内で「お笑い芸人が書いた本じゃない。いい意味で」みたいなことを強調して言っているし、帯にも千原ジュニアが同じことを書いていた。
最初、それをスンと吸収はできなかった。お笑い芸人の書いた本、読んだことあったかなと脳内の本棚を漁ってみたりした。
『ホームレス中学生』(麒麟・田村著)も『花火』(ピース・又吉著)も読んではいなかった。
『どうやら僕の日常生活は間違っている』(ハライチ・岩井著)は読んでいたが、まああれはエッセイだし。
なので作品自体の雰囲気は知らずのまま、この本を購入し、開いたということを説明したい。

この本は短編5編からなる短編集だ。
「どの登場人物も不器用だったから『不器用で』にした」とたしかなにかの対談でニシダが言っていた。確かピース又吉との対談だったか。
しかし、私はそうは思わなかった。
例えば短編4つ目、『テトロドトキシン』は、虫歯を治さないことで自死を選ぶ男の話だが、ゆるやかな自死を選ぶ手段として虫歯を選択する狡猾さはなんとなく不器用だなと思えた。
どの主人公も、どの物語も、人間でありながら社会を裏切り狡猾に生きて、死んでいく様を見せていた。本当に不器用な奴は人間の器を外れるか、もっと狭い社会の縛りみたいなものに収まり、出られなくなるのではないかと感じた。

読了して、「お笑い芸人らしくない」には納得がいった。
どの物語も、カタルシスも大きくないし、気持ちよくも笑えもしない。
どこかずっと居心地の悪さを体臭のように匂わせている。そしてそれがちらちらと鼻の前を掠めていく感覚があった。
強烈な読書体験ではないが、確実に読書でしかあり得ない体験であった。
大きな人物の死や、達成・成功もない。叫びたくなるような悲観もない。
世にあるエンターテイメントでその起伏が許されるのは読書が一番適するのだろう。
そういう意味では、確実に素晴らしい本だった。もしこの本を友人に勧めるなら「読書でしか味わえない、人間の気持ち悪さをじっとりと感じられる」と勧めるだろう。

今まで読んだ本で似たような体験はあったかなと探ってみた。
経験で一番近いのは西村賢太の本だなと感じた。(ファンであるので亡くなったのが本当に惜しい)
西村賢太は私小説を出す文筆家だ。
現代日本に大きなカタルシスを生み出すのは難しい、もしくはあったとしても鮮烈に書くときな臭くなると個人的には感じている。
西村賢太の人間性を中心に、しょうもないことをしょうもなく、それでいて地の文は美しくて書くことによって、大きくないカタルシスに深く心を打たれた。
ニシダの小説もそのような体験があった。人間臭すぎるし、大きな感動はなくとも、美しく自我を揺らす瞬間があった。

そう、人間臭すぎるのだ。
この本の登場人物は人間臭すぎる。人間でしか自死はしないらしい(多分)からこそ、この重苦しさは人間でしかあり得ないことになっている。
普段、クズ芸人の扱いでニシダは漂っている。多才なサーヤの横で、ツッコミとしておちゃらけながらも、怠惰の皮をかぶって本当はもっと卑屈で卑怯で、人間であり続けるニシダが本性なのだろうと私は読んだ。

なんだか、ネガティブなことをこんこんと書いたが、ハッキリ言って小説としてはとても良い本だった。
先述の通り、この体験は本でしかあり得ないだろうし、短編で読みやすさもある。
地の文も美しいし比喩も素晴らしい。
個人的には、4編目の『テトロドトキシン』が好きだ。虫歯を放置するきっかけが全く一緒。自死は後付けであるが、ただ忘れてそしてそのまま行かなくなった。口から腐臭を漂わせ、無意味な人生を営む。そのずっと小雨が降っているような人生を私はとても愛おしいと思った。

小説を読んでいる時、半ばぐらいで一度手を止め、この本のテーマ曲はなんだろうと考えを巡らす時間を作ることが多い。
日本語の本を読んでいる時に日本語の歌詞の曲を聴くと気が散るので、大抵はインストか洋楽になる。
『不器用で』で選んだのはビリーアイリッシュの「Lost Cause」

一定のベースラインが基準で、淡々と"あなた“を責めている曲。
「I know you think you're such an outlaw.But you got no job」
「あんたは自分をアウトローなヤツと思ってるだろうけど、なにも実績もないよね」
みたいな意味だろうか。
結局、みんな映画の主人公のような人生ではないが、どこか美しいと感じる。
この本を読んでそう感じた私もビリーに皮肉される人生かもしれない。

この記事が参加している募集

読書感想文

サポートお願いします!文なり曲なり諸々の経費として活用します!下手したらなんでも聞いちゃうよお願いとか。