霊山寺観音堂(三重県多気町) 十一面観音菩薩立像

 三重県多気町にある黄檗宗のお寺ですが、浄土真宗のお寺の境内にある、小さなお堂だけのお寺です。
 拝観の予約のお電話をした際、時間の約束を大まかにしかしなかったので、世話役の方を長い時間、お待たせしたら悪いなと思い早めに伺ったのですが、それでも既に来られていてお堂の扉を開けストーブに火を入れて待っていて下さいました。お年を伺うとご高齢でおまけに心臓病を患っておられるとのことで、寒い中お待たせしてしまい恐縮しました。
 御本尊様は二体の十一面観音菩薩様です。向かって右側の仏様は柔和なお顔が誰かに似ているような、やや人間的な感じがする十一面観音様です。平安前期頃の仏様で衣紋も深く彫られています。左側の十一面観音様は平安後期頃の仏様でやや背が高く、細見で衣の線も浅く高貴なお顔立ちです。よく似た二体の仏様が並んでおられる姿は、仲の良い姉妹のようです。
 お堂の中には、本尊様の他にもたくさんの仏様がいらっしゃいました。仏様はひとつひとつ、その仏様にピッタリのお厨子に入っておられましたが、それをこの世話役の方が手作りされたそうです。「年をとって時間がたくさんあるから」と謙遜されておられましたが、とても素人が作られたものとは思えない出来映えでした。
 江戸時代の初めにこのお寺が現在の場所に移った時、この世話役の方の御先祖様が遠くの山から御本尊様を担いで運ばれたそうです。そして、ご自身もずっと仏様のお世話を続けてこられたのだそうです。お厨子に入られた仏様をひとつひとつ説明してくださりながら見ておられる眼差しは、まるで大切な我が子を見ているような優しい眼差しでした。長い間仏様の側にいらっしゃるうちに、仏様のお心とこの世話役の方のお心とが、まるで合掌をする時の左の手と右の手のように、合わさっているのだなと思えました。