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上海・西安紀行(2023.8.9-14)

8月9日から14日まで夏季休暇を取得し、上海・西安に渡航した。諸々受けたカルチャーショックを忘れないうちに、書きとどめておきたい。

今回の旅行では、GW頃からビザ申請の準備をはじめ、渡航2週間前にやっとビザ取得。行くまでの労力はこれまでの海外旅行でも最も大きいものかもしれない。同時にビザなしでほとんどの国に行ける日本のパスポートの有難みを再確認する。
ビザが必要なこのタイミングでわざわざ上海へ行く人も少なく、行きの中国東方航空はほとんどが中国語が飛び交う機内。福岡の台風を避けて、ソウル上空を抜けるルートで1時間半遅れの昼過ぎに到着した。予定到着時間の30分程度前に陸地が視認できたので、順調なフライトなんだと思い込んでいたが、どうやらそこは中国ではなく、韓国であったらしい。

ソウル(上空)経由、上海行



到着後、SIMカードを入れ替えて、入国カウンターを通過すると、現在上海に駐在する親友と会い、緊張が解れた。

6日間の旅行は、上海駐在の親友やそのパートナーとの再会もあり、非常に楽しいものであった。特にデジタル化が進む上海と、古都長安の面影残る西安の街並みは旅の楽しみの大きなものであり、挙げればきりがない。
そこで、今回は今回の渡航で受けたカルチャーショックを3つ挙げることで他は割愛することとする。おそらく写真を見てそれぞれ思い出すこともあるだろうが、以下の3つのポイントは異文化を通じて日常を見直すうえで今後も重要な視点となりうるだろうし、以下を参照点として今後の仕事や読書等で挙がった疑問を豊潤なものへ深化していきたいと思う。


1つは、上海や西安のどちらの都市でも完全キャッシュレス社会となっていたこと。いくらか日本円を持って行ったが、一度も使う機会はなかった。厳密には、使える機会がなかったと言えよう。
すべての決済がAliPayで行われる。まずは、電車やバス等の公共交通機関は乗り場や改札では例外なくQRコードの読み取り機があり、交通費はAliPayで決済される。AliPayは旅行者であればDebitカードと事前に紐づけをされていれば、決済が可能になる。さらに、タクシーもAliPayの使用が可能であり、逆にAliPayなしでは何もできない。コンビニではセルフレジがあり、自分で商品のバーコードを読み取り、それをAliPay決済してそのまま購入できる。レストランでも机にあるQRコードからメニューを見て、そこから注文すれば購入したものがAliPayから既に決済されている。市街に出ると、シェアサイクルが至る所にある。シェアサイクルは自転車についているAliPayからQRコードを読み取ると開錠され、使用後は適当な場所においてロックをかければ使用した分だけAliPayから使用料が決済される。

AliPayの画面。Bus、Metro、Taxiもすべてこの画面で決済可能。



決済手段に関して、いちいち人と人がコミュニケーションを取ることが完全に要らなくなった社会というものは日本にいると驚異的で、上海は全く英語が通じないのだが、それでもなんとかやっていけるようなインフラにはなっている。

しかし、逆に言えば、ある意味すべての購買ログがプラットフォーム側に残るということでもある。旅行者であるからか、露骨なレコメンド等はなかったが、これだけ決済インフラが整い、すべての行動がデジタル化されているということは裏を返せば、常に行動が把握されているということでもある。中国に個人情報はないと言われるが、それをどう思うかと言う部分もポイントであろう。友人曰く、コロナ対策の真っ最中には、PCRを3日に1回受けて、陰性が証明されていることや、陽性者の近くにいたログが表示されていないことがあらゆる交通機関や店舗への入場の条件であったという。ニュースで見た上海の過酷なコロナ対策へのデモの映像と、旅行中に見た華々しい上海の様相は似ても似つかなかったが、そのコントラストを見た友人は便利さの裏にある監視社会の側面に複雑な面持ちであった。

驚いたことの2つ目はEVシフトだろう。上海では車やバイクの通りも多いが、日本とは全く異なる。音がしないのだ。なぜなら、ほとんどの車がEVであり、ガソリン車を見つけるのが難しいくらいにEVシフトが進んでいる。
今回の旅行では何度もライドシェアを使用したが、ハンドル横についたタブレットを巧みに使用しながら、エネルギーである電気の消耗を確認するドライバーの姿に驚いた。
EVシフトについて、友人に聞くと中国のナンバープレート事情がEVシフトに関わっているらしい。EVのナンバープレートは背景がグリーンになっており、見ればすぐにわかるようになっている。逆に、ナンバーが白のものは珍しいガソリン車である。そして、ガソリン車のナンバープレートは数が制限され、基本的にはオークションで売買されるという。そして落札額は90,000元程度、日本円にして約180万である。これは中国国産車1台分の金額と近い値段であり、ガソリン車を買うには実質的に2台分の値段がかかる。さらに、オークションなので常に落札できるかどうかは限らない。
なかなか、極端な制度であるが、ESGの側面を考えると、合理的であるようにも思える。
脱炭素の文脈の中で、環境負荷を価格に反映させようというカーボンプライシングという発想があるが、中国のナンバープレートがその発想から来ているかはわからないが、実質的にはカーボンプライシングが達成されていると言っても良いであろう。

最後の3つ目はモノやサービスの価格だろう。まず驚いたのは公共交通機関の運賃が圧倒的に安いことである。電車やバスは2元~3元=約40円~60円で乗ることができる。タクシーも、友人の家から空港までの40分間乗っても1,000円未満という安さ。旅行者にとっては、移動コストが低いことは非常にありがたい。細かな移動も、至る所にあるシェアサイクルがあり、これも1元=約20円程度で使用できる。もはや景観を見る以外に、歩く理由がないくらいに移動の利便性が高い。

シェアサイクル。最後までカゴとハンドルが連動することが視覚的に慣れなかった。


一方で、モノの値段は安いわけではない。食事や洋服に対しての値段は日本の1.5倍程度と市場経済が機能している部分では十分にインフレが起きている。こうした価格のメリハリ?は統制の効いた中国ならではという部分もあり、面白い部分であった。ちなみに、兵馬俑を見るためのチケット代は120元=訳2,400円であり、観光地としてはノーマルな値段となっている。兵馬俑に行ってみた感想だが、とにかく人が多かった。外国人観光客はほとんどいないながらも、おそらく国内の観光客で朝のラッシュ時の西武池袋線や田園都市線並みの混雑具合で、子供や老人は危険な思いをする程度であった。いつまでビザ申請が必要な措置が続くのかは不明だが、おそらく観光は内需で十分に賄えるのであろうという感覚であった。
移動コストに安さにも付随しているが、食文化?として面白かったのが、一般的な食堂においては、メニューにないものは食堂宛てに外売(Uberのようなもの)している点が興味深かった。日本では、レストランへの食べ物の持ち込みはあまり良いこととされていないが、中国では店の人もあまり気にしていないようだ。移動コストの安さに起因しているのか外売も手数料が安いので、レストランで好みのドリンクがなければ、レストランの届けさせるというカルチャーが成り立っており、これは驚いた。最終日に四川料理を食べたのであるが、そこのお店にはヨーグルトドリンクがなく、外売で店まで届けてもらったことでだいぶ助けられた。飲み切ったあとのゴミもそのままレストランの人が片付けており、なかなかカルチャーショックであった。

以上、雑文であるが、忘れないうちに記しておく。
心残りは、中国史、特に唐の時代やシルクロードのダイナミズムについてもう少し予習してから行けばよかったというのが率直なところだ。西安の一つ一つの建造物や遺跡も違った味わいがあったに違いない。
そこは、帰国後の読書で、バーチャルに記憶を補っておきたい。

西安の大雁塔にて。
西遊記のモデルである玄奘三蔵がインドから持ち帰った経典が眠る塔とそれを見守り鎮座する象。

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