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ファンレターの返事が来て、英語に燃えた話。

今はもう、紙とペンを使って「手紙を書く」ということ自体ほとんどなくなってしまっているようだけれど、その昔、私が中学生だった頃は好きなハリウッドスターにファンレターを書くことが流行っていた。私の学校内だけの事だったのかもしれないけれど、よく好きで買っていたハリウッド映画の紹介をしていた雑誌には各ハリウッドスターのファンレターの宛先が書かれていたので、今思うと割と簡単に手紙を送ることが出来た時代だ。今はどうなんだろう?もっと直接的、そして瞬時にメッセージを送れる時代になって、そしてそのメッセージはスマホやタブレット、PCの中であっという間に相手に届くのだろうか?

昔は当然Google翻訳も何もなく、英語で手紙を書くには辞書を使った。または本屋で「英語での手紙の書き方」的な参考書を探し、自分なりにどうにか書き方を学んだものだ。きっと今もし当時の手紙を読んだら目も当てられないほど稚拙な英文だったとは思うけれど、そのたった1枚の手紙を書くまでに何日も、何時間もかけていた事を懐かしく思う。当時は特に英語への興味は左程なかったし全く得意でもなかったけれど、ハリウッドスターへ手紙を書くという行為にワクワクしたものだ。

中学の頃は家にワープロはあったけれど、可愛い便せんを使いたくて手書きで手紙を書いた。不慣れな英語を間違わないように下書きを重ね、辞書を引き、どうにか書き上げ、そして最後の難関である宛先を間違えないように集中して封筒に書くのだ。海外に手紙を書いたのはきっとそのファンレターを送った時が初めてだったと思う。自分の日本の住所の書き方さえ難しくて、本当にこれで届くのか?私の家の住所はこれで合っているのか?と何度も確認して、ようやく郵便局に行きその国に届くように切手代を支払うのだ。あぁ、懐かしすぎて胸が熱くなる。

そうだ、私はそうやって少しずつ英語を学び、英語に慣れていったのだ。今ならきっと、Google翻訳の「日本語」の方に自分の書きたい文章を打ち、瞬時に英訳されたものをコピペして自分のアカウントから相手のアカウントへ送るのかもしれない。なんなら、Chat GTPに「ハリウッドの俳優〇〇さんへ英文ファンレター書いて」と言い、あっという間に出来上がるであろう素晴らしすぎる文章を相手に送るかもしれない。それは時間も労力もかなり削減出来て、この忙しい時代に合っているとは思うけれど。なんだかちょっとあっけなさ過ぎて寂しく思えてしまうのだ。もちろん英語に興味のない人たちには最高のツールであるとは思うけれど。

Ethan Hawke

私がファンレターを書いた相手はイーサン・ホークという俳優さんで、正直特にファンであったわけでは無いのだけれど、何となく手紙を送ってみたのだ。書くからには真面目に、あなたの大ファンですという熱い思いを書いたように記憶している。そして手紙を送ってから数週間後にそれはやって来た。そう、返事だ。

いつもの様に学校から帰って家の郵便受けを開けたら、得体のしれない何だか海外の匂いがする封筒が届いていた。それこ封筒の右端に「Air Mail」の文字があったように思う。私はしばらく状況が読み込めず固まった。私の名前がローマ字で書かれているけれど、一体誰だ?なぜ海外から手紙が来るのだ?え?何?怖い・・・。恐る恐る封筒を開けると、イーサン・ホークの生写真と、「ファンレターをありがとう。これからも応援して下さい。」と書かれていたような気がするタイプで打たれた数行の英語が書かれていたメモが入っていた。その数行の英語さえ私は分からなくて、必死で辞書を引いて訳したように思う。

私が英語を習得しようと思ったきっかけは人生の中で数えきれないほどあるのだけれど、この出来事も確実にその一つだ。もっと英語を学びたい!いつか会った時に話せるようになりたい!もっとスラスラと英語を読み、理解できるようになりたい!幼い私はそう思ったに違いない。そして、特にファンでもなかったイーサン・ホークの大大大大大ファンになったのは言うまでもない。

そして私はまた、彼にファンレターを書くことにした。

その日から私はまた新しい英作文に取り掛かることになった。返事をくれた事への返事を書かなくては!と、また新しく日本語で下書きをし、それを英訳する日々だ。参考書にはファンレターの書き方は書かれていたとしても、返事への返事などというそんなひねった例文などどこにもない。地道に一人で英訳をしていたように思う。今考えると、本当に情熱的だったなぁ・・。

そして今度は手紙だけでなく私は彼に油絵を送ることにした。私は絵を描くのが好きだったのだけれど油絵を描くことはほぼ初めてで、それも小さな小さな薄いキャンバスを東急ハンズで購入し、イーサン・ホークの新しい映画のポスターをそのキャンバスに落とし込んだ。英文も油絵も信じられないほど稚拙だったと思うけれど、アナログな時代の良い思い出だ。絵の具が乾くまでが本当に待ち遠しかったなぁ・・。そして遂に私はまたファンレターを送ったのだ。今度は油絵の入る少し大きめの封筒に入れ、どうか届きますようにと願いを込めて郵便局へ行ったのだ。それからまた返事が来るかどうか分からなかったけれど、ドキドキしながら家の郵便受けを開ける日々が始まった。

幼いころから映画を観るのは大好きだったけれど、ここら辺から私はたくさんの洋画を観るようになっていった様に思う。私にとって今でも映画と英語は切り離せないものだ。映画で英語を学ぶことが、何よりも私の英語上達にには効果的だった。ファンレターの返事のお陰で、私とハリウッド映画との距離が各段に縮まったのだ。本当に単純な性格に生れて良かった。

そしてまた、返事が来た。

イーサン・ホークから届いた封筒は前回と同じものだった。そして大きさも同じだったので、「あぁ、きっとまた同じ写真と短いメモが入っているのかな?」と思いながらも、それはそれで嬉しくて大急ぎで封筒を開けた。やはり同じ内容の物が入っていたのだけれど・・・・、ん?何だかタイプの文字で書かれているメモに手書きで何かが書かれている。なんだ?!と思い読んで見ると、「Thank you for the painting」と書かれていたのだ!日本語にすると「絵をありがとう」という意味だ。そう、そのメッセージだけは手で書かれていたのだ。私は喜びに打ちひしがれた。それはイーサン本人からのメッセージではないかもしれなけれど、とにかく嬉しかった。今でもあの時の感動を覚えている。

人が語学を学ぶキッカケは様々だけれど、それが「目的と喜び」がセットになると長く続けられるのではないかと思う。私はここでアメリカにいるハリウッドスターとやり取りが出来たことも嬉しかったけれど、それを自分一人英語と格闘しながらやり遂げられた事が何より私の心を満たしたのだ。
この後、まさか英語とこんなに長い付き合いになることになるとはその時想像もしなかったけれど、この経験は英語から喜びを得られた大切な出来事の一つとなった。

もちろんイーサン・ホークはそんなこと知る由もないけれど。それでも彼は私にとって最高に特別なスターであり、永遠に感謝をし続ける存在であることは間違いない。

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