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浦島太郎現代編シリーズ

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自作小説、浦島太郎現代編シリーズです。 一話一話の長さはそんなにないです。
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浦島太郎.7

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「…えーっと…それ本気で言ってるの?」
「……本気ですよ。若宮さんにしか頼めないんですよ。」

4年次の夏、お互いに進路が決まってさあお祝いしよう、となった飲みの席で彼女が煙管に火をつけた直後に唐突にしてきたお願いに僕は戸惑わざるを得なかった。

相変わらずなんだ

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浦島太郎.6

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さて、僕からすれば彼女をより意識せざるを得なくなったイベントから2日後、僕は幸との約束通り、幸の家に駄弁りに来ていた。
当時、僕は、僕は幸にあんなことをされているくらいには幸と交流していたにも拘わらず、彼女自身が恋愛的なことに対して一切言葉では触れてこないため、彼

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浦島太郎.5

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花見のついでに駄弁りに行ったことをきっかけに、僕らは不定期だが二人で出かけるようになった。夏の終わりには夏祭り、秋になったら月見ついでの外出、冬にはクリスマスを理由に、特にこれと言って何をするわけでもなかったが、とにかく二人で居る時間が増えていった。それと同

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浦島太郎.4

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そんなこんなで、1年次が終わりに差し掛かっていた。
先にも振り返ったように基本的に僕らは、喫煙所か食堂での迎合でしか、腰を据えて話すことはなかったし、結局僕らが出会ったきっかけになった新歓イベを主催してくれたサークルに、幸も入会しなかったみたいだった。幸自身のプラ

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浦島太郎.3

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数日後、待ち合わせ通りに大学の喫煙所に向かった。
既に幸は煙管を吹かしており、日に照らされた幸の姿は、あの夜に見たものとはまた違って見えた。
「田村さん、ごめんねちょっと遅れた。」
「どうも。別に気にしなくていいよ。どうせこうやって煙草吸ってるだけですから。」
「ハハハ、それもそ

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浦島太郎.1

若い頃に輝いて見えたことが、年を取ってからそんなにきれいなものではないと思わされる、なんてことは珍しくない──

今や一息つこうにも一々周りに配慮しないといけなくなった状況と、最近益々ひどくなってきた五十肩を重ね合わせつつ、紙巻きたばこに火をつける。この銘柄でもう4代目だ。どうも自分の好きになる銘柄は、採算が合わずリストから削られやすい。

「ふぃ~、若宮さん、お疲れ様です。」
「おう、木村、お疲

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浦島太郎.2

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(以下続き)

亡き妻、幸と最初に出会ったのは大学の頃であった。
新歓の時期に、その日の飯のために適当に参加したサークルの飲み会で、明日の飯をどうしようか、などといったことを考えていた。
当時、私は浪人しており既に酒が飲める質だったので、先輩にいい具合に目を付けられ酒をいつも以上に飲んでしまい、少々風に当たりたくなっていたことを覚えている。
「先輩、すみません、ちょっとトイレと

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