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自意識とバンドTと私②90年代半ば〜後半

自身のバンドTシャツとの向き合い方を思い出しながら書いて行く。
前回の①、中高生の頃の話はコチラ

バンドT着れない期

90年代半ばに上京。制服を着ることもなくなり、着る服=自己表現の意味合いが強くなってくる。上京後、自分は比較的周りに音楽好きが多い環境下にいた。

90年代半ば〜後半ごろの自分に関しては、サブスクもYouTubeもない時代なりにジャンルに偏りはあれど新旧洋邦熱心に音楽を聴いてたしライブも行っていたが、バンドTを着てた記憶も記録(写真)もない。

トラットリアmenu100についてたTシャツは未開封のままタンスの奥底に眠っている。

1998年リリース

自分の知る狭い範囲内での話になるが、1994~97年くらいの時期の20歳前後の(ロック系を中心とする)音楽好きの子たちのバンドT事情を思い出してみると、男性の中にはそこそこ着てる人がいたように記憶している。

この頃は好みの音楽の傾向が服装に現れる人が多く、UKロック好きな子はフレッドペリーやロンズデール着てたし、ギタポ好きな子はボーダーにカーディガン、サイケ・ガレージ好きな子は柄物でピタッとした古着のシャツやワンピースを着ていた。大学のHR/HM系サークルの人たちは黒っぽいTシャツ(あれはバンドTだったのかな)に短パン履いてたイメージある。この時代の若者のHR/HM界隈ではオルタナティブメタルとかその後ラウドロックと言われるようなのが好まれていて80年代イメージのピッタリ皮パン履いてるようなメタラーはいなかった。ついでにジャズサークルの人たちはいつもオシャレな帽子を被ってた印象がある。
そういやテクノ好きが最もプリントTシャツを身に付けていた。ミュージシャンそのものより、音響系メーカーロゴTやゲーム系とか。あとポケットいっぱいついた太めのズボン履いてる率高かったんだけど、あれはなんの影響なんだろう。クラブで踊る際便利なのかな。
HIPHOP界隈にはとんと疎いのもあり、マンハッタンレコード前にいる悪そうな人のムードにはZEST客の自分は恐れをなしてしまっていた。
そしてこれは何かの影響とか文化的背景がどうとかではなく、ロック中心に雑多に音源買いまくって金がない人はだいたいディスクユニオンの袋をバッグにしてボロボロのデニムに古着の汚いミリタリーコートを着ていたものである。

当時のユニオンの袋はダントツに耐久力があった。画像は最近のもの。

といってもそれぞれいつもいつでもそういう服装をしてたわけじゃないし、ターゲットTシャツ着てる子がグランジを聴かないというわけでもなく、無印良品のシャツ着てスウェディッシュポップ聴いてGファンクも聴くとか普通にある。
服装から全部を知ることなんてもちろんできないが、服装で推し量れる好みの音楽の傾向の一部というのはあった。


(追記)
90年代後半のバンドTの話といったら
Hi-STANDARDまわりの話無しには語れないだろうし、
むしろその後の日本のバンドT文化の中心はこちら界隈なのだが、
私のnoteは基本洋楽ロックTシャツメインに語ります。
この頃、車を持ち始めた地元の友達連中は
みんなドライブ中にメロコアかけてたよ!

そんな中、バンドTという直球に好きなバンドがわかるアイテムを身に付けている人でそのバンドを聴いてないということはまずなかった。

繰り返すが自分の知る狭い範囲内での話ではあるが、音楽好きの20歳前後の若者はだいたいにわかは激しくカッコ悪いものといういわゆる大二病の一種を患っていたと思う。

さらにその時代の空気もあるのだろう、自分自身の過去を自虐するだけでなく、意識が近いもの同士で自分らの思う価値観から外れる他人を揶揄ったり皮肉ったりするのを楽しむような雰囲気があった。
というか自分がそうだった。

「レコード入れるわけでもないのにReady Steady Go!のレコードバッグを普段のカバンとして使ってる男なんなん?」とか、「ロッキンオンが取り上げた途端に急に聴きだして前から知ってた風ふかす奴〜」とか、「スタジオボイス特集関係なく毎号盲目的に買ってる男はちょっと」「あの人あの年齢で小山田完コピな服装しててどうかと思う」とか、実際はどうあれ自分の目に「浅く」見えてさらにそのくせ自信満々な男性のことを友達とディスっていた。とても性格悪い行為に見えるし、実際性格悪いと思うが、これには理由もちょっとあるのでそれは後述する。

かばんに罪は全くないし、どう使おうが自由です

すっかりそんな意識をもつようになっていたので、バンドT着るのにそのバンド聴いたことないなんていうのはもう問題外だし、単に聴いたことあるレベルでデザイン優先で着るのも抵抗がある。更に言えば、割と好きでもその当時でTシャツが簡単に入手できるようなメジャーなバンドや、代表的すぎるジャケデザインのTシャツはベタすぎて恥ずかしい、という思いももっていた。中高生の頃とはだいぶマインドが変わっていたといえる。

その頃の僕らにとってはみんなそりゃ聴いてるし好きだけど着れないデザインの一例

上記の点に加え、さらにバンドTを着れなかった理由はいくつもあったかと思う。
・バンドTに女性向けサイズがまだ少ない
・そもそも好きなバンドのTシャツが売ってない
・好きなバンドTがあってもデザインが好みではない
・ライブに行ったお土産としてやバンドを応援する理由で買うほど金に余裕がない
これらの条件を乗り越えるのも、まずハードルが高い。

そして、決定的な大きい理由のひとつに、好きなバンドをTシャツでアピールするような行為が恥ずかしくてできない。というのがあった。

これは今ならSNSで #邦ロック好きと繋がりたい というようなタグをつけての投稿は恥ずかしくてできない、という若者がいるならばその感覚にも近いかもしれない。

「自意識過剰だ、だれもお前の服なんか気にしてない」こういう話題に対してこの手の意見は3億回は目にしてきたし、一見正しいようにも思えるが、他人の服を気にする人は結構いるし、割と勝手に判断もされる

90年代において、ことバンドTのような趣味漏れドストレートアイテムは、意味を持ちすぎてしまっていたし、自分のような2,30年経った今当時のバンドTについてこんなに長文を書いてしまうような「考えすぎてしまう」タイプには、そう簡単には身につけることができなかった。
素直にそのバンドが好きで着てて似合ってる人のことを恥ずかしいなんて当然思わなかったし、むしろいいな〜とは思ってたけど、当時の自分には難しかった。

具体的に、バンドTを着ることによるどういう弊害を恐れていたかを挙げると
・そのバンド&類似するジャンルしか聴かないと勝手にカテゴライズされる
・そのバンドが好きということをアピールしたいんだ、つまりそのバンドを好きな自分が好きってやつね、と思われる
・同じバンドが好きな人は全員仲間!絶対気が合うよ!という謎感覚を持ち合わせた人に異様に食いつかれる
・女がそのバンドT?はいはい男の影響
・女がそのバンドT?感心感心、じゃあこれも聴くといいよ?

90年代後半期に若い女の子がバンドT着てるとこういう目にあうって考えるのは自意識過剰なだけじゃないってことをわかってくれる人、きっといると思う。XがまだTwitterでいいねがふぁぼだった頃、こういう話題も200万回はでていたし。
というかバンドTを着ていなくても、単に若い女が洋楽を聴いているレベルでなんとなく男性に不愉快な思いをさせられた経験がある故に自意識も過剰になってしまうし、こういうことしてきた「浅くて自信満々」な男性について友達とあげつらって溜飲を下げる、という先に述べた話に繋がることになる。

すでに価値観が合う友達や音楽の話ができる知り合いがまわりにいるし、バンドTを着ることによって生まれる新しい同好の士との楽しく平和な出会いという可能性よりも、着たいと思えるようなバンドTを探す労力&デメリットのほうが多いと感じていたので、ますますバンドTに興味がなくなっていった。

これは音楽趣味とバンドTの話だが、90年代サブカルチャーの他のものに置き換えることもできるだろう。

この頃、人並みに洋服が好きでアニメ漫画ゲーム大好きという若者もいくらでもいたが、ファッションに興味ないアニメ漫画ゲーム好きは、ちょっとオシャレしてるように見える子がアニメ漫画ゲームを語る様子を見せると「にわかが」と叩く文化(文化?)もあったが、この話になるとさらに後2万字は必要なのでまた今度にする。この辺の感覚は数年年齢が違うだけで全然変わってくるし環境によっても違うので、自分がみた景色はこうだったという話に過ぎないものになるが。
ちなみに自分は90年代末頃、おそらく女ということとその風貌からか「漫画が好きって言っても松本大洋とかでしょ笑」と当時感覚見た目純度100%なオタク君に初見でイヤ〜な対応を受けたことがある。彼は彼なりにそれまで色々な思いをした上でそういう態度をとる人間になった経緯があるんだろうが、やはり勝手に決めつけられカテゴライズされるのは不快であった。
これも世代が違うとわかりにくかもしれないが、松本大洋先生の作品が好きなことが軽く見られていたわけではない。「こいつは堂々と漫画が好きなんて発言をしているが、スピリッツに載ってるような俺から見れば超メジャーな松本大洋の漫画が好きなアタシ超マニアックとでも思ってるに違いない。最近こういう人が漫画好きぶること多いんですよね〜。ふぅ〜。」という気持ちが込められているのを私は波動で瞬時に感じ取っていた。大きいくくりでは思考回路がこのオタク君と自分は同種だからわかる。

また、似た者同士のスモールサークルを出て社会人となった後に、「男の影響でしょ?」とは言われない趣味(やおい、宝塚、ジャニーズ、V系等)の女性たちに出会い、「そもそも趣味をアピールするのが恥ずかしいという自意識の質が違う」「こちらはまずは隠さないといけない」「趣味に没頭するタイプということは似てても音楽なんてモテる趣味と我々は学生時代に背負ってきたものがまるで異なる」というような話を聞き見識を深めていくこととなる。彼女たちとは90年代サブカルチャー範疇の一般的にはマイナー扱いされる中で好きなものがクロスオーバーし共通の話題も多いのだが、主現場がどこかの違いは大きい。
サブカルチャーからサブカル(笑)となっていく過程の時代。やはりこの辺の話は長くなる。

バンドTに話を戻して、その後フジロックはじめフェス文化の隆盛にともないバンドTはより身近になっていき、好きなバンドの可愛いデザインの女の子向けサイズというのも増えていくが、積極的に買って着るということはほとんどないまま、私のバンドT着れない期は20年の長期に渡ることになる。

次回、40歳を超えてバンドT着る期へと…つづく。




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