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某大手通信企業-CRM導入

Buyer's Voiceは、企業がどのように課題を整理し、解決策を把握、比較し、決断を下すのかという、Buyerの意思決定プロセスに焦点を当てた新しいメディアです。

第一弾は、某大手通信企業のDX事業部門にてマネージャーをされている方に、CRMを導入した際の意思決定プロセスについてインタビューを行いました。

■決済者プロフィール
企業規模:数万人
業界:IT・通信
部署:DX事業部門(500名以上)
検討SaaS:CRM(SFA)
導入結果:自部門の一部のみ(100名)
購買プロセスにおける役割:決裁者


──CRMを検討するきっかけを教えてください。
元々スプレッドシートで顧客管理をしていたのですが、お客様が増えるにつれ管理が煩雑になり、スプシへの入力漏れ及び情報の精度が粗いなどの理由で、失注などの問題が生じていました。 また、本部長や役員へのレポーティングにおいても、情報の不確かさがありました。 こういった背景からCRMを検討する事になりました。

──初めに声を上げたのは誰だったのでしょう。
プロジェクトマネジャーですね。 マネジャー層以上のメンバーが、管理状況が不徹底だということで、危機感を感じていました。

──なぜこのタイミングだったのでしょうか?何かセミナーに出て感化されたとか、たまたまベンダーから営業を受けて考えるきっかけになったということはありますか?
いいえ。ある大型案件がミスコミュニケーションが原因で受注できなかったとという事があったり、レポーティングの際に情報が入力されてなく困った経験が積み重なり、 各営業メンバーが頭の中で情報を管理しているという事が何度かあり、今後のCRM検討の話に発展しています。

──ありがとうございます。 課題に対する解決策は複数あると思いますが、CRM以外に何か検討されましたか?
はい。CRMを導入する前に、内製で仕組みを構築できないか検討しました。 具体的には、入力漏れや入力ミスを減らす仕組み、案件の最新情報をリアルタイムに把握する方法、スプレッドシートのマクロ化や、入力をウィザード形式にするやり方、ミスコミュニケーションを減らす方法などを調べていました。

──内製化することも検討されたのですね。
ただ、結果的にそういった仕組みを内製で開発及びメンバーへ定着をさせる為のリソースが十分に確保できそうになかったので見送りました。

──一般的には、解決策の大枠が決まった後、要件の構築がります。 解決策を構成する具体的な”要素”や”機能”は誰がどのように整理されたのでしょうか?
改善施策プロジェクトを発足して、3名ほどのメンバーで検討チームを発足しました。そこで、今までスプレッドシートでやってきたところの良かった点・悪かった点を洗い出し、リスト化しました。悪かった点を克服・改善するために、どういった機能が必要なのか、概要レベルですがリストアップしました。

──リストアップされた数はどれぐらいでした?
大体、数十個レベルです。

──検討メンバー自体は、どうやって選んだのですか。
そういった事業管理をするチームが部門の中にあるんです。特に顧客管理をするだけではなくて、プロジェクト管理、レポーティング管理など、管理業務をする部門です。そこの中から選出した形になります。

──そこには現場メンバーや、実際にCRMを使うメンバーは入っていないということですか。
いや、一部兼務しています。

──この方たちは、これまでにもツールの選定は頻繁にされていますか?
いや、ツールの選定は1年に何回もないです。

──今回はCRMという管理に関係するようなものだったので、管理業務のメンバーの方が主体となってプロジェクトメンバーに入ったという理解でよろしいですか。
はい。おっしゃるとおりです。

──ありがとうございます。次に、いわゆるサービス比較です。 CRMといっても世の中にはたくさんの類似サービスがあると思います。 どのように調査をして、比較をしていったのか是非お聞きしたいです。
弊社の中に、既にCRMツールを使っている部門が多く存在していました。ですので、彼らに「どのようなことをしているのか」と、ヒアリングしていきました。 次に、社外の調査です。日本ではSalesforceの認知度が高いですが、それ以外も含めて、どういった企業がどういったCRMツールを使っているのかということは、ネット上でもかなり公開されているので、そういった情報もかき集めていきました。

──まずは社内でヒアリングをして、次にweb調査をしたんですね。
そうですね。ベンダーさんのHP以外にも、 *「CRMの国内人気ランキング」*などのまとめサイトに、価格や機能比較が載っているので、それらも参考にしました。

──どのサイトを見たか覚えていますか。
有名なものとしてはITトレンドでした。他にも無いくつか見ました。 基本的にGoogle検索で引っ掛かって、1ページ目に出てくるサイトは一通り見ています。

──具体的に、どのように比較されていったのでしょうか。
初めにweb情報や、社内ヒアリングを通して比較する会社を5社に絞りました。その5社に対して、○×表のようなものを作りました。

──○✖︎表の判断軸は、検討チームがリストアップした項目がそのままくるのでしょうか。それとも○×を付けるために別で用意したのでしょうか。
後者に近いです。要求項目全てに○×を付けていると、さすがにやり過ぎだと思うので、大項目レベル、代表的な機能をサポートしているかどうか、世の中や社内の情報を見ています。特に、各ツールベンダーのHPに掲載されている機能特徴メッセージよりも、まとめサイトで掲載されている比較表のほうが、とても参考になりました。

──○×表は、営業からも話を聞いた上で○×を付けていたのでしょうか。
はい、参考にしました。

──この○×表の判断軸自体で、迷ったことはありますか。
基本的にはまとめサイトに載っている判断軸を参考に最大公約数的な比較項目をいったん出してみて、全部が○や全部が×だったら見る必要はないということで削っていき、最終的には優位性を見た感じですね。

──ありがとうございます。 次に社内の合意形成のプロセスを進める上で、少し引っ掛かったところや、逆にすんなりいったところをお聞きしたいです。課題を見つけ出す、解決策を整理する、要件を決めていく、比較をしていくプロセスで、メンバー間の合意形成に苦労した経験などはありましたか。 はい。最後まで揉めたというか、課題になったのは、やはり価格のところです。 購買からは「安いところがいい」と言われるのですけれども、安かろう、悪かろうということもあると思います。実績があるところは高いのですが、ディスカウントして、購買に「それでいこう」と言ってもらえるように、価格のベンダー交渉が最後まで苦労したというか、ややこしかったところだと思います。
もう1つ課題になったところは、われわれ自身が求めている要件は、契約見込みがあるのか、またその時期といった基本項目だけあれば良買ったのです。 しかしCRMツールも競争が激化していて、かなり機能も複雑化・高度化しています。そのようなツールはオーバースペックなのです。細かく管理はできるのだけれども、マネジメントコストとして、そこまでツールに時間を費やすべきなのかと考えました。ライト版などの手軽なCRMツールで良いのではないかという議論もあれば、名の知れた有名なところを採用しておかないと、後で「やはりしっかりしているほうが良かった」ということになるのではないかという議論もありました。

──どのように着地点を見つけていったのですか。
結論を言うと、導入実績です。使ったことがある人たちも一部いたので、その辺の慣れというか、実績で、採用判断としては倒れたというところがあります。

──最終的には、ご自身が導入実績で決めたのですか。それとも合意形成のような、多数決を取った感じなのですか。
いや、多数決ではないですが、最終的には社内のメンバーとの協議でPros/Consを出して、ディベートほどではありませんが、どちらにいくべきか、ディスカッションをして決めました。
まずは検討チーム内で議論して、ある程度1つに絞った結果を3名のマネジャー層を入れてディスカッションをしました。

──分かりました。次に、情報の検証という観点です。 一般的に営業が提供する情報は、少しバイアスが掛かっているというか、当たり前ですけれども契約してほしいので、少し歪んだ情報も含まれていると思います。ご自身で、この情報の確からしさにおいて気をつけていた点はありますか?
2つあります。 1つは、デモライセンスのような形で、標準的なものはデモIDで触らせてもらいました。 もう1つは、社内ヒアリングです。営業さんが言っていることが確かなのかどうかということを、既に社内で採用している一部のメンバーに聞いてみて、使い勝手、実績、コスト感などを壁打ちしました。

──社外に聞いたことは、特にないですか。
そうですね。社外は、おっしゃるようにバイアスが掛かるので、正確ではない情報に左右されるのは良くないと思っています。

──結果として、営業が言う説明と、自分で触った感触や社内ヒアリングには、ギャップはありましたか。
トライアルの段階では一致していると感じました。 ただ結局、トライアルで試しに触るだけなので、本当に使ってみないと分からないことが多くあるのです。UI/UXや画面のレイアウトは良いように見えるのですけれども、実際に案件を放り込んでみて、運用を回してみるのとは、全然次元が違うということは、後になって気づきました。

──ちなみにトライアルは、何社したのでしょうか。
2社です。
比較フェーズのところで、○×表を使い5社から2社に絞り1ヶ月程度トライアルしました。

──5社から2社に絞り込む際に作成した、○×表はデモの後になって変更されました? それとも変わらなかったですか?
変えませんでした。5社から選んだという軌跡をしっかり残しておくことが重要でした。弊社の購買プロセスで、一定の決裁額に対しては、「何社以上の中からPros/Consを出しなさい」というルールがあります。いきなり「2社の中で調べました」と言うと、購買からは「もっと比較して持ってこい」と言われます。
儀式的、形式的に5社をピックアップして、基本的には内々に気持ちは1社に絞り込んでいるケースもあります。申し訳ないのですが、あえて優劣を付けることもやっていました。例えば、どの企業も全部○という項目は表現しても意味がないです。きちんと○△×が付くような比較項目を選出して資料化していました。

──web調査や社内のヒアリング調査で、1~2社はある程度決まっていて、残り3社は形式的で、社内に軌跡を残さないといけないという点も含めて、商談をして、資料をもらって、○×を付けるというプロセスになっているという認識で合っていますか。
おっしゃるとおりです。

──全体の意思決定プロセスにおいて、購買部の影響力は結構高いですか。
高いですね。購買部は組織目標として、値決めというか、ディスカウントのミッションも持っていますし、どれだけディスカウントをしたかというKPIも彼らは持っていますので、その辺のメスの入れ方は尋常ではないです。
額面が小さければ、サービスの内容に対して、それほど言われることはないです。 ただ、決裁額が大きいと、ちんと正しい物差しで比較しているかどうか、購買側からもサービスの内容に対して理解し、突っ込みを入れられます。 機能面の差異がないということが確認できれば、あとはコスト調整だけです。

──内容に対しても踏み込んでくるんですね。
割合としては、そういったことが多いです。なぜかというと、購買側もその内容を理解して購買本部長に決裁を取るからです。われわれが購買本部長に説明をするわけではなくて、購買の担当者自身が理解をして、この事業部からこういった相談が来て、こういったプロセスで比較選定して、これにしたいと思う、ということを購買部の中で承認を得るのです。 したがって決裁額が大きいと突っ込みが激しくなります。

──全体を見返して、一番苦労した点は、購買部との折衝ですか。
そうですね。購買との折衝ですね。おっしゃるとおりです。

──それ以外で、ここが大変だったことはありますか。
なぜ外注するのか、なぜ契約をする必要があるのか、かつ、なぜ内製でそれができないのか、もっとコストを掛けずにスプレッドシートで工夫するすべはないのか、そういったところに対するロジカルなシナリオを組むのがかなり苦労する点です。

──これまでいろいろ説明していただいたプロセスは、大体資料で全部まとめられていますか?
はい。

──営業によっては、その辺の社内稟議プロセスの大変さを理解し、なぜ自分たちのサービスを導入するべきか、なぜ内製ではなくてSaaSを導入するべきか、ということを営業側がまとめてくれたり、サポートをしてくれたりするケースもあると思います。その辺は助けを求めたことはありましたか。
はい。もう存分にお願いしました。他社での利用状況の場合、企業ブランドや企業名はもちろんマスキングした形ですが、どういった企業で採用されて、どういった効果をなし得たのかという定量的なアウトプットを示してもらいました。それを採用したから内部の残業時間が減ったとか、顧客管理状況が円滑に回ることで失注のリスクがなくなったなど、他社さまの実績・事例などからお知恵を頂くことが多いです。

──それは営業資料やホームページの情報以上のものを、直接聞いたというイメージですか。
おっしゃるように、それ以上のもので確認していくということになります。サイトにある情報も参考にはしますが、それは粗いというか、薄い情報にしか過ぎなりません。より詳細なところはNDAを結んで、公開情報で掲載するほどの内容はないけれども、こちらとしてはそこの内容が判断材料として大きな影響要素になるようなものは、口頭で頂いたり、ローカルで資料をもらったりします。

──振り返ってみて、営業担当者に期待する点はありますか?
営業さんは良いことしか言いません。 本当にネガティブな要素、他社さんで出くわしている課題、解約理由、もしくは触ってみないと分からないような内容は中々言いません。例えばデータが増えたり、機能拡張するとシステムが重たくなり、パフォーマンスが結構落ちるみたいなことがあります。
ですので、webの口コミなども見ます。前提として、信憑性など多少リスクがあることを承知の上ですけれども、口コミは役に立ちます。とにかく、営業さんの言うことを鵜呑みにしないように気を付けていました。
また理想を言うと、我々のユースケースに合わせて、比較選定のやり方や、 過去に他社がサービス導入した際の、社内承認の取り方やコツなどをアイディアとして頂きたかったです。

──それは営業に聞かなかったのですか。それとも、聞いても出てこなかったのですか。
営業さんにも聞いてはいましたけれども、打ち合わせを繰り返すことで、理解を深めてきました。向こうがそういったところまで情報や資料の整理がなく、売れればいいという考え方を持っている営業さんもいらっしゃいます。 また、我々が直面する課題を1回の打ち合わせで全て伝え切れるわけではありません。
可能であれば、企業のHPで予め公開してくれたり、 難しい場合はNDAを結んだ暁に、そういった資料が貰えるなど、できるだけ公開してくれていると嬉しいです。

──少し話が戻りますが、CRMを実際に使うのは現場の営業メンバーです。 社内の検討メンバーに彼らをもう少し加えようと思いませんでしたか?
現場の営業メンバー彼らは時間的余裕はないので、協力的ではありません。またCRMに至っては、結構スキルがないと判断できないので悩ましいです。
厳選されたメンバーで検討する方が質が良いと思います。
ただ「勝手に選びやがって」と言う人が今後出ないように、トライアルは検討チームに加えて、希望者を募って検証しました。

──そもそも、課題感を持っていない人もいますからね。
そうなのです。課題感がないのに受け答えすると、適当な回答をして、ミスリードになりかねないという危険はあります。

──最後に1つだけ、購買プロセス自体を外部の第三者の公平な立場にアウトソースすることは考えられましたか。
例えば、RFP、RFIを作成するなど、作業部分だけを委託することは過去にもありました。 ただし、判断軸については権限が与えられないので、難しいと思います。

──作業をある程度外出しすることはできそうだが、判断軸を決めて、社内のメンバーの合意形成をつくるところは、非現実的だというイメージですか。
そうですね。あとは、自分たちプロパー自身が中身をしっかり理解しておかないと、決裁者もしくは事柄承認の時につぶされてしまうということがあります。

──しっかり理解して、納得感を持った上で、承認を取るということですね。
はい。

──ありがとうございました。
ありがとうございました。


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