「家庭的な女性」。

 「家庭的」の定義をどうするかにもよるとはいえ、私は「家事全般が得意」という定義では一切家庭的ではない。料理はできないし自炊もほぼしない、一人暮らしだけれど全自動洗濯乾燥機を週二で回しロボット掃除機に1Kの部屋を掃除してもらっている。

 「家庭的」を「穏やかで自分を立ててくれる」という「良妻賢母」的ニュアンスで言っているのであれば、それこそ畑違いで、「共同生活は組織運営、家事も育児も親戚づきあいも二人で回すプロジェクト」と考えているフラット・対等を求める合理主義者である私は黙って従う気は毛頭ない。

 唯一「家庭・家族を最優先!」「家庭へのリスクヘッジとして正社員で働き続ける!」的に「家庭を大事にする意欲」であれば普通の人より高いだろうが、「家庭的」しかも「女性」という文脈でこの意味になることは間違いなくないだろう。


 だからこそ、婚活で言われる「家庭的な女性」はアピールする気もないし、「仕事も家事も二人で回そう! 時短家電に頼りまくって、自分たちの生活を快適にしよう! パートナーは家事の共同責任者というよりも、一番身近にいる応援団! 人生を豊かにする存在! マイノリティへの偏見がある人はうまくやっていけません!」的な「モテよりマッチング」なアピールをしていた。効果的だったとつくづく思う。付き合っている彼は私よりずっと料理ができる頼もしい人だ。


 それでも、婚活市場では「家庭的な女性」が需要が高いらしい(と信じているアドバイザーさん、仲人さんが一定数いるし、上の年代になればなるほど実際需要も上がるだろう)。こんな前時代的な価値観を団体が抱えたら炎上待ったなしだが、婚活は一対一の関係性を築く場で、相手側(男性側)の個人的な希望が「相手に家庭を任せたい」という意図での「家庭的な女性を求める」というのは自然なことだ。

 ただ、婚活市場の男性の年収ボリュームゾーンは確か300万~400万円程度で、共働き必須である。その人たち相手に家庭的アピールをして、女性に家事を任せたい人間を釣ることは、どんな目的に叶うのだろうと思ってしまう。会う母数を増やす?


 個人的には、年収の多寡で家事分担の分量を決めるのはよくない……というより悪だと思っている。これは女性側の実情を踏まえてのもので、主に収入格差に起因する考えだ。

 女性の方が無償ケア労働の主体として社会的に見なされているために、現状その人個人にそういった職場を離脱する可能性がなくても、「将来的に休まれる・時短になるリスクが男性より高い」とみなされて、重要な仕事を任せてもらえない、昇進できない、などの理由(と書くと正当性があるように見えるが実際は偏見・バイアス)で、女性は男性と比べて給与の上がりづらい現実がある。

 その事実を無視して収入に応じた家事分担を求めたら、女性はいっそう無償労働に時間を割かれ、バイアスによって女性の給与を下げておくことの妥当性を支持してしまう。そして家事や育児をしたい男性の生きづらさを促進し、結果的に不幸を生み出す仕組みに加担してしまう。

 そういうわけで、無意識に履かされている下駄に気づかず、あるいは無視をしている側が一方的に「収入が低いんだから、その分家事を多くやれ」と押し付けてくる行為は完全に害悪だと思う(双方話し合ったうえで結果的にそうなっているのは当然ながらまったく問題ない)。


 こうまで考えている人間なので、自分より高い年収の人に仮に「家事分担を多めに」と要請されても「?」となるし、低めの年収(300万にとどかない)なのに「家事は女性に任せたい」「家庭のことは女性に主に担ってほしい」という人からお申し込みを頂戴した際にはなおのこと「??」となり、ボリュームゾーン向けのアピールとしても「?」となる。

 「家庭的」が「男性受けがいい」のだとしても、本当に家庭的な人以外はアピールするのは自爆行為ではないか、と、時折見かける婚活指南をみて思ってしまった。

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