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年表 21世紀の音楽/メディア1990-2008(『InterCommunication』 64号/2008年春号)

年表 21世紀の音楽/メディア1990-2008

音楽の進歩がテクノロジーの進歩と共にあったのは20世紀までだった、と(現時点では)言ってしまっていいだろう。コンピュータの高性能化/大容量化/低価格化/個人化が急速に進んだ90年代を過ぎて、やってきた00年代は洗練化/細分化/並列化/大衆化が混じり合う漠然とした停滞感に覆われていた。00年代の変化は、出来なかったことが可能になるというよりは、前に出来たことがもっとやりやすくなった、というようなボトムアップの変化である。無論これは喜ぶべき事態であり、テクノロジーそのものを実験の対象とする風潮が終わり、テクノロジーがようやく、音楽表現を試みるための前提・基盤になったと考えられる。音楽の前衛が非テクノロジーな事象を要因に劇的な成果をあげるかといえば、今後もそうではないと思うが、テクノロジーと音楽を同一視した評価は見直されるということだ。

年表はポピュラー・ミュージック史ではなく、サウンド・アート史でもない。あえていうならエッジとオルタナティヴの折衷で、その後の音楽史の変遷から遡って重要だと考えられる事象、継承されないまま残された事象の二つの要素を柱に、年表制作者の裁量によって選出した。通史を書くことの困難性は年々増しているが、必要なのは誰もが思い当たる共通項を選び出すことではなく、先端的・周辺的作業を集積することだと判断した。それを踏まえて、制作時のキーワードとしたものは、ノイズ、サンプリング、アンビエント、サイレンス、マイクロスコピック、音響派、グリッチ、サインウェーヴ、ロウアーケース、フリークエンシーなどである。昨今のPCDJや音声合成の流行、インターネット上の音楽配信やコミュニティなどにも配慮したつもりだが、見落としは多々あるだろう。そこに切り捨ての意図はないことを強調しておきたい。書籍関係は論文等で参照されるものを中心とし、展覧会カタログは原則掲載していないなど(例外あり)、意図的な操作がある。

1990

BOOKS
・Peter Kivy『Music Alone: Philosophical Reflections on the Purely Musical Experience』Cornell Univercity
・『ur(特集=ポストモダン・ミュージック)』2号、ペヨトル工房
・『コンピュータ・ミュージック・マガジン』創刊号、電波新聞社 ※日本で最初のDTM専門誌
・細川周平『レコードの美学』勁草書房
・秋山邦晴『エリック・サティ覚え書』青土社
・グレン・グールド著、ティム・ペイジ編『グレン・グールド著作集』みすず書房
・『ur(特集=アンビエント・ミュージック)』4号、ペヨトル工房
・キーワード事典編集部『ポップの現在形』洋泉社
・Dan Lander and Micah Lexier 編『Sound By Artists』Art Metropole / Walter Phillips Gallery
・Helga de la Motte-Haber『Musik und Bildende Kunst』Laaber ※音楽と造形美術について
・『Het Apollohuis. Five Years 1985-1990』Het Apollohuis ※Paul Panhuysenによる実験的サウンド・スペースHet Apollohuisは、この他にも活動記録を兼ねたカタログを数年毎に出している

APPLI
・「Max/Opcode」 ※Maxは、現在サンフランシスコのCycling'74社が開発している、音楽/マルチメディアのためのヴィジュアル・プログラミング環境。前年にOpcode Systems社にライセンスが供与され、この年発売された。売上はかんばしくなかったが、1991年に米国『Keyboard Magazine』誌で「読者が選ぶ革新的ソフトウェア」に選出された
・「AMS Logic 2」 ※最初の本格的なデジタル・コンソール
・「Cubase 1.0 for Mac」 ※1989年にAtari版が発売されたCubaseをMacに移植。Steinberg社製

CD
・Akio Suzuki『Soundsphere』
・宇川直宏、海賊盤レーベル「TWOTHOUSAND MANIACS!」設立 ※個人所有のカッティング・マシンによる海外ノイズのアセテート盤を無許可リリース。CD-R無き時代の家内制手工業
・GX Jupitter-Larsen『A Basic Introduction To The 'T.N.U.'』 ※The Haters名義の活動で知られる音楽家
・映画『Step Across the Border』 ※フレッド・フリスのドキュメンタリー

EVENT
・規格書「Orange Book Part II」 ※ 前年のPart Iに加えCD-Rの規格が定められた
・ショップ「ヴァージン・メガストアーズ」第1号店@マルイシティ新宿
・ショップ「HMV」第1号店@渋谷
・レナード・バーンスタイン没

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39,731字
2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定です(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。テキストを発掘次第追…

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