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ネットレーベルから登場した突然変異imoutoid(仮)(2008年2月『Quick Japan』vol.76)

例えば「鯖缶レコード」「16次元レコード」「-N」「ON-LI」「Bump Foot」「Maltine Records」「deathdoll」「Mizukage」「逆襲レコード」「Eightynine Production」などの名前から音を逐一想像できる人がいないのはまだ仕方ない。ウェブ上でMP3配信で活動するこれらゼロ年代以降に登場したネットレーベルが、これまで各種メディアでまともに紹介されたことがあるのかは知らないが、CDの販促としてのネット進出ではなく、自覚的にMP3を手段に選び取った彼らの存在は、今はまだ特殊に見えても、数年以内に至極当り前の存在になるだろう。

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imoutoidの名前を知ったのは、去年九月にMaltine Recordsからリリースされたミニアルバム『adepressive cannot goto theceremony』を聴いてからだ。無料配信なので未聴の人は何としてでも聴いて欲しい。美少女ゲームの音をサンプリングしたダンス・ミュージック風でありながら、ナードコアや電波ソングとは違う質感を持ち、ブレイクコアやエレクトロクラッシュを通過した音だけども、ゴリゴリのクラブ・ミュージックとは位相が異なる。聴いて初めてここに隙間があったのかと気づかされるような、絶妙な音楽がここにある。De De MouseやCherryboy Functionが好きな人なら確実に耳が反応する音のはずだが、しかし「美しいメロディを持ったポスト・エレクトロニカ」と説明するだけでは見逃してしまう、平成以降のポップ・カルチャーを背景にした、まだ言葉になっていない不思議な強度を秘めていると思う。

かつて「ファミコン宇宙人」名義で活動していたimoutoidのウェブDJデビューは中学二年生の時だという。彼が特別なのではなく、そもそもMaltine周辺のアーティストには平成生まれが多い。ゼロ年代前半に多くのアーティストが陥った九〇年代の呪縛が初めから無く、でも別に近過去が嫌いでもない。生まれた時からネットが当り前にある世代が生んだ最初の音楽、と断言するのはまだやめておくが、いま最も可能性を感じるのは間違いなくここだ。モノへのこだわりが人一倍あると思われていたクラブDJ達でさえ、レコードからPCDJに移行しつつある時代である。常識なんていつのまにか変わる。初音ミクもいいけど、こっちもね!

<!--以下、2021年コメント-->

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2001年以降に雑誌等に書いた記事を全部ここで読めるようにする予定の定額マガジン(インタビューは相手の許可が必要なので後回し)。あとnoteの有料記事はここに登録すれば単体で買わなくても全部読めます(※登録月以降のことです!登録前のは読めない)。『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』も全部ある。

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