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アジェンダブログ:インドにおけるデータ流通を加速させる取り組み

データは正しく利用されることで莫大な経済的利益を生み出すことが期待されていますが、この機会を生かすためにはさまざまなボトルネックに対処する必要があります。スタートアップ大国であるインドでのデータ流通を加速させる取り組みを紹介するアジェンダブログをご紹介します。

原文(How can we address data bottlenecks in India?)はこちら↓

インドにおけるデータ活用の背景

インドの公共部門におけるデータ活用に向けた取り組みは、実に2005年にまで遡ります。当時制定された情報公開法は、市民に対して透明性を確保し、説明責任を果たすことを目指していましたが、2012年の国家データ共有・アクセス政策(NDSAP)により、イノベーション推進に向けたオープンデータの共有施策が開始されました。

そもそもオープンデータとは、イノベーション推進に向け公的資金で作成された非個人的・非機密データですが、公共機関はオープンデータとは別に行政サービス提供のために様々な情報を保持しています。プライバシー保護などの観点から一部の情報は非公開にする必要がありますが、社会的利益のためにはこうした情報も権利を尊重する形で交換されるべきだと考えられています。

スタートアップ大国であるインドでは、特に農業・ヘルスケア・物流・教育の分野において、AI利用や個人向けにカスタマイズされたサービスを提供するために適切なデータセットが必要とされています。イノベーションに投資されるべきリソースの多くが、入手できないデータセット収集に費やされおり、時には適切な同意や法令順守なくデータ収集が行われることもありました。当然、このようなビジネスモデルは持続可能なものであるとは言えません。

データ利用を加速させる枠組み: e-Sahamathi

2025年にはデータとAIがインドのGDPを最大5000億ドル成長させると言われています。公共部門によるデータ共有の必要性と信頼できるデータへの需要は社会的にも認知されている一方で、インドに欠けているのは権利を尊重した環境でのデータ共有目的ベースでの適用を加速させる政策的枠組みでした。

カルナータカ州政府が解決しようとしたのがこの問題です。州政府は、世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンターおよびその他の関係者と協議の上、初の枠組みとして、市民に事前の同意を得てデータ共有を可能にする一連のガイドラインを発表しました。このガイドラインは、プライバシーとデータ保護を保証するだけでなく、データを社会的・経済的に活用するためのエコシステム確立を促進するものです。

具体的には、e-Sahamathiという同意管理ツールを使い、市民は民間サービスプロバイダーが特定の目的のために自分のデータを使用することに同意を示すことが可能になります。そして第三者であるその民間サービスプロバイダーは、オープンAPIを通じて、明示的に同意を示した市民のデータにのみアクセスすることができます。

e-Sahamathiの活用例として、例えば農民が自分の個人データ(財務情報、土地データ、作物の種類など)を銀行や保険会社と共有し、クレジットや保険の条件をカスタマイズして利用することが可能になります。これは有効な最新データが利用可能になることでアグリテックのエコシステムにイノベーションがもたらされ、農家にとっては所得の増加が、アグリテックのエコシステム全体にとっては市場の効率化による利益がもたらされることに繋がります。

また、同ガイドラインは積極的なデータ流通を促す一方で、データ保護とプライバシーの原則に基づき、データ共有のための厳しい条件を定めています。サービス提供者の監査・データの悪用防止・データ保持・同意撤回時のデータ削除に関する規定は、エコシステムの信頼をさらに強固にしています。

インドのデータ流通に関しては、世界経済フォーラムがホストしたオンライン・ワークショップにおいても議論されました。

データ流通の展望

テクノロジーにより、データは無限の可能性を持って様々な分野で利用することができるようになりました。適切な技術とガバナンスの枠組みによって、データの共有は利益とイノベーションの創出を促進します。

同意に基づく目的主導型の信頼できるエコシステムにおいて、公共部門のデータにアクセスし、やがては民間部門のデータにもアクセスすることが可能になることは、価値を創造し、デジタルとデータ経済への公平なアクセスを促進する上で重要な役割を果たすと考えられます。

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執筆:世界経済フォーラム第四次産業日本センター 
   佐藤良磨(インターン)

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