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地域活性化のためのモビリティ: “Shobara Model” ペーパー発行!

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターは「The Shobara Model Leveraging multi-source local data for the public good(庄原モデル──公益のための包括的な地域データの活用)」を2022年4月29日に公開しました。今回は、その内容についてご紹介します。


蓄積されたデータは効果的に活用されているのか?

現代社会において、私たちの日常生活は多種多様なデータ源にもなっています。スマートフォンの位置情報、公共交通機関の利用履歴、クレジットカードの決済の履歴など、様々な情報が日々データベースに蓄積され続けています。このようにして蓄積される膨大なデータを、社会全体や地域のために有効活用することはできないのでしょうか?

現在、地域に散在するデータを活用して社会に実装する試みは、ほとんど進んでいません。企業が保有する単体の閉じたデータベースでの利用に留まっています。

こうした現状は、地域のさまざまなステークホルダーにデータ利用の機会を開きつつ、信頼を担保するガバナンスモデルで変えていくことができるかもしれません。目指すべきは、信頼に値する多様なプロジェクト参加者が、責任を持ってデータにアクセスし、プログラムやサービスの開発を行って地域に貢献していく姿です。

より効果的に移動データを活用するためのビジョン


地域活性化のためのデータ利活用に向けての4つの課題

目指すべき姿に向けて解決すべき課題は、以下の4点に整理できます。

  • プライバシーポリシーの策定; 法令遵守に加えてポリシーを定めてデータ取扱いを遵守

  • 地域からの支持(Endorsement); データ提供集団としての地域住民の同意の担保

  • ビジネスモデルの創出; データ基盤活用の営利事業してのグッドプラクティス(成功事例)の創出

  • インフラの整備; データベースの繋ぎ合わせの手間、解析・分析リソース

つまり、同意取得やプライバシー保護を遵守しながら、経済的に実行可能で、地域住民にとって便利で、将来的にデータを使った新しいビジネスを生み出すことができるような、柔軟性のある地域内データ基盤の整備が必要となります。

特に、施策の目的が住民の行動変容である場合、この要求水準は高くなります。なぜなら、パーソナルな部分に最適化したビジネスモデルには、より詳細な行動データが必要となり、それがプライバシーポリシーとの両立や地域住民の支持を獲得するハードルを高くするからです。


庄原モデル──データ活用による地域活性化に向けて

このような問題意識から、当センターでは、高齢化と人口減少が進む広島県庄原市の関係者と連携して、経済的に持続可能で信頼ある運用モデルの構築を推進しています。

具体的には、上記の課題を解決するために、ボトムアップ・アプローチを採用し、主に二つの施策を行いました。

  1. 地域のモビリティデータと消費者データの組み合わせた分析をボトムアップで行い、住民の行動パターンを様々な角度からの把握

  2. 地域の関係者や有識者、専門家が参加する”地域データフォーラム”を毎月開催

以下では、この二つの取り組みについて詳しく見ていきましょう。


(1) 移動データと消費データの組み合わせによる住民の行動パターンの多角的な把握

個人情報保護を遵守しつつ、住民のデータ(公共交通、自家用車、消費など)を組み合わせて分析することで、世代別の移動量・活動量や、住民の移動パターンについて、多くの示唆的な結果を得ることができました。

特に、今回の実証実験では、データを組み合わせて分析する前に、データマスキング等を施して匿名加工することで、プライバシーリスクを低減しています。その結果、個人のプライバシー尊重を担保しつつ、地域課題の見える化・モニタリングを多角的に行うことができました。

移動データの分析により得られたインサイト


(2)地域データフォーラムの開催

加えて、データ取得時に同意を得るだけでなく、データ分析・利活用の場面でも、地域の関係者が積極的に参画できる機会を創出することを目指しました。すなわち、地域住民のデータ活用の意識の醸成と素早い実践に向けた「地域データフォーラム」という体制を構築し、議論を深めるガバナンスモデルを整備しました。

この月次のフォーラムには、産官学(地元商工会、地方自治体、ITスタートアップ、自動車OEM/サプライヤー、中央省庁、大学教授など)にまたがる幅広いメンバーが参加し、当センターがファシリテーションを行いました。これにより、各ステークホルダーの対話や懸念を吸い上げつつ、有用性・メリットの共有、実践状況や情報の開示・議論することが可能となりました。

この地域フォーラムの開催は先に挙げた課題の解決に大きな役割を果たしています。特に、データ活用に関するトラスト醸成の観点では、地域コミュニティ内に議論の場を設けることで、センシティブな個人情報の取扱について、幅広いステークホルダーの賛同を得ることができました。

そして、それを用いたデータ解析結果を共有することで地域住民代表とも地域の現状理解について活発なディスカッションが行われました。

庄原モデル地域フォーラムの仕組み(左)と会議参加者からの提案数の推移(右)


また、地域フォーラムでの議論で生まれたアイデアの中で、特に有望であった貨客混載事業開始からわずか1カ月半でアプリ導入による実際のPOCの開始を実現し、大成功を収めたのです。この取り組みは、地元メディアにも取り上げられ、地元企業の働きかけですでに商業運用も始まっており、良い循環が生まれています。その概要は以下の記事をご覧ください。


データ活用とトラスト醸成を架橋する庄原モデル

本記事では、データの利活用に向けての課題と、庄原市でのアプローチがそれらの課題をどのようにクリアしつつ、データを活用した取組みが展開されているかを紹介してきました。

ここまで見てきたように、異なるパーソナルデータを複数組み合わせて行う分析や施策は、仔細なインサイトを得ることができたり、大きな効果が挙げられます。しかしながら、プライバシーリスクの高いデータを利用するには、データ利用に関する住民と地域の支持・信頼が不可欠です。

広島県庄原市で行われている「地域データフォーラム」は、まさにこうした信頼関係を醸成し、データ基盤やデータガバナンスの推進する場として機能しています。そして何より、データの利活用に地域が積極的に参画していくボトムアップ型の庄原モデルは、地方のモビリティを継続的に活性化させようとするとき、欠かすことのできないモデルケースだと強く思います。


下記の記事は、2022年4月12日に行われたG20 Global Smart Cities Alliance(GSCA)Japan Summit 2022において、庄原市で行われた取組みについてプロジェクト参加者の対談をまとめたものとなっております。ぜひ合わせてお読みください。


執筆:粕谷健太(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)


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