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防災デザイナーのクリエイティビティ

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 嘱託研究員/教官、鉄道系サービス会社BC研究センター 主任研究員/人命安全研究会・座長デイビッド・佐伯 潤 先生

2020年7月13日(月)、国士舘大学のデイビッド・佐伯 潤さんのお話を伺った。この方は、防災やBC 、人命救助まわりで様々な肩書きをお持ちだが、つまるところ「防災のデザイナー」だと認識した。でも「防災のデザイナー」とはどんな人なのか?人命救急に当たる現場のプロフェッショナルや防災をシミュレートしたり対策を考える研究者やコンサルタント、そして政策責任者たちと何が違うのか?

防災デザイナーとは

防災デザイナーとは「災害」というテーマに解決策をデザインするサービスデザイナーである。サービスデザイナーらしく、発想がとことん「人間中心」だ。数字や過去の事件・出来事から発想するのではなく(もちろんそうしたデータも活用はするけれど)、まず「何かが起こったら、人はどう反応するか」というところから出発する。
災害発生時に、人々はどういう行動を取るのか、その行動がどういう状況を産むのか、そして被害を最小限に抑えるためには、人々をどう誘導すればいいのか。そうしたことをすごくリアルにシミュレートしながら、防災の仕組みや解決策を作っていく。
だからプランにリアリティがあり、納得感がある。(佐伯さんの洞察にもとづく直下型地震が発生した時の状況描写は、とても悲観的で生々しく、気分が沈んだ)

防災デザイナーの人間観察力

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防災デザイナーの人間行動への観察力は、優れた小説家と同じだ。小説家は、架空の状況を設定し、その状況下に置かれた人間の心理や行動をシミュレートして物語をつくる。例えばアルベール・カミュの小説『ペスト』が、発表60年後のコロナパンデミック下で注目されたのは、作品で描かれているペストという疫病下の人間の心理・行動が、コロナによる活動自粛という近しい状況に置かれた読者が理解・共感できるからである。(詳細は以前に書いたこちらの記事を参照)政治的なテーマで、架空の舞台を作り出し、その世界における人間の心理と行動を小説という形でシミュレートした世界的文豪が、『一九八四年』などの著者ジョージ・オーウェルだ。

優れた小説と同じように、いざという時に人々の行動を促すことができる防災プランは、リアルな人間を知っていないと作れない
防災デザイナーのクリエイティティは、思いつきや閃きではない。数字や資料上のデータに依拠するだけでは足りない。真摯な人間観察に基づいて、最適な解決策を作り上げていく力のことである。

防災デザインのリアル

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今回の講義で学んだことは、人は危機的な状況下で思っている以上に何もできない、ということである。だから、訓練を受けたこと以外はやらない、ということが大事になる。例えば、
・練習する機会がないままの防災グッズならあてにしない。
・助けが必要な人がいても、自分の身を危険にさらすことはしない。
などである。いかにも消極的なようだが、それが全体としてみた時に被害を最小限にとどめる方法なのである。それが嫌なら「しっかりと訓練を受けなさい」ということだ。

今回の講義は、実際に災害が発生したという仮定のもと、いくつかのシーンが提示され、受講生に自分が取るであろう行動をシミュレートさせる、クイズ形式の講義だった。
当然僕も自分のとるべき行動を考えたのだが、答え合わせの結果、ほとんど外れてしまった。一番最初の「災害が発生した時の一番大事なルールは?」という質問も、いきなり間違えた。僕の防災レベルが相当低いようである。

最後に、佐伯先生のお話で特に覚えておきたいことが3つ記録しておきたい。万が一災害が起こった時には、忘れずにいられることを願って。

1.災害が発生した時の一番大事なルールは、自分自身の安全が最優先ということである。自分を守れない人に、他人を助けることはできない。自分が被災することで、被害が広がる。
2.訓練を受けたこと以外はやらない。できないことをやろうとすると被害が広がる。
3.「安心」と「安全」は別。「人は分からないことを、自分の経験をもとに埋めようとする」認知不安というマインドモデルを持っている。これで「安心」という感情が形成されるが、実際はむしろ「危険」である。

#武蔵野美術大学 #造形構想研究科 #クリエイティブリーダーシップコース #防災 #防災のサービスデザイン #デイビッド・佐伯

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