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人新世のデザイン

デザインとは近代産業社会の所産であると言われます。そして資本主義の発展とともに、生産と消費、技術と人間、社会と個人などつなぐ手段として、デザインの重要性は広く認められるようになりました。

しかし、産業社会や資本主義の進展は、地球規模の大きな環境変化をもたらし、「人新世」(じんしんせい)という地質学的に新たな時代に入ったと言われるようになりました。産業社会も資本主義も大きく変わっていかねば、経済的な格差はますます拡大し、政治的な分断が広がり、気候変動や生物多様性を減衰などによって環境が激変し、破滅のシナリオが免れないような状態となっています。デザインが産業社会の所産であるということは、見方を変えれば、デザインは人新世とともに生まれた人類の創造活動ということです。

人新世という見方が生まれたのは21世紀になってからです。新しい時代になってきたことがはっきりと見えてきた今、デザインも変わらねばなりません。新しいパラダイムを切り拓かねばなりません。

従来、産業社会における人々の営みに貢献する創造活動がデザインだったわけですが、人類が地球上にもたらした人新世という新時代を生き抜く知恵と実践がデザインの本質となったわけです。

人新世のデザインは、人間の欲望の歯止めがかからない産業社会を変え、誰もが主体的に生きる居場所をもてることを理想とする人類の社会システムを、多様な種がそれぞれのニッチにおいて生息できるよう複雑なネットワークでつながりあう自然生態系と融合させて、新しい統合的なシステムをつくるという困難に立ち向かう手段となるのです。

【人新世のデザインの7つの条件】

  1.  新たなエコシステムの創出。人間の社会システムと自然生態系を接続する。

  2. 大きな時間スケール。短期的な課題解決や最適化にとどまらず、地質学的な時間スケールでそれぞれのデザインの背景と影響を考える。

  3. 創造活動の適正規模。効率化のための行き過ぎた創造活動の分業化を抑制し、デザインの実践に全人的(ホリスティック)に関われる適切な規模を維持する。

  4. ローカルから始まる地球規模の着想。地域固有の自然や文化の価値をそこで生活を営む人たちが自覚し育て、地域の社会システムと自然生態系を接続し、その価値をグローバルに展開する。

  5. 分かち合う場。デザインが私的資本の価値向上の手段でなく、コモンズの持続的な管理と活用の手段となる。

  6. 寛容の倫理と多様な美。個性化・多様化の促進しながら同時に分断を抑制する。寛容の促進は多様な価値観から生まれるさまざまな美を生む。

  7. 循環の思考。トレーサビリティの徹底。レジリエンスのある循環システムの構築。使用後の「負のサプライチェーン」まで考える。

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    世界を批評的に捉え、以上の項目をリードするのが、人新世のデザイナーの役割。

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