藤崎圭一郎

デザイン批評、デザイン研究、デザイン教育。編集者、東京藝術大学美術学部デザイン科教授。…

藤崎圭一郎

デザイン批評、デザイン研究、デザイン教育。編集者、東京藝術大学美術学部デザイン科教授。1963年横浜生まれ。地域活性化に取り組むクリエイターを紹介する「山水郷チャンネル」の企画&ホスト。雑誌『AXIS』に生命科学の第一線の研究者を取材する「SciTechFile」を連載中。

最近の記事

身体と身体性

身体と身体性との意味を考えるのに下のような図を考えてみた。 身体は物理的実体であるが、身体性は、その実体プラス、身体という実体を通した外部世界との相互作用である。相互作用とは「聞く」「見る」「触る」「感じる」といった「動詞」で表現できるものであり、物理的な実体としての身体は、目とか脚とか「名詞」で表現される。身体性とは、身体を表す名詞が動詞と結びついて外部世界と接するときの現象・反応・姿勢・行為であり、それは決して身体を抽象化した上で生まれる概念ではなく、物理的な現象や反応

    • 人新世のデザイン

      デザインとは近代産業社会の所産であると言われます。そして資本主義の発展とともに、生産と消費、技術と人間、社会と個人などつなぐ手段として、デザインの重要性は広く認められるようになりました。 しかし、産業社会や資本主義の進展は、地球規模の大きな環境変化をもたらし、「人新世」(じんしんせい)という地質学的に新たな時代に入ったと言われるようになりました。産業社会も資本主義も大きく変わっていかねば、経済的な格差はますます拡大し、政治的な分断が広がり、気候変動や生物多様性を減衰などによ

      • 毛虫のスケール

         近所の山にジョギングに出かけた。強風で木から落ちたのだろう。舗装された道路の真ん中を這いずり回っていた毛虫がいたので、クルマに轢かれたらかわいそうだと、道端の熊笹の葉を一枚とって、それに毛虫にくるむように掴み木に戻したところ、毛虫が話しかけてきた。 「ありがとうございます」  コイツ、しゃべった…… 「お礼に超能力を差し上げましょう」  なんと…!? 「次のなかからお選びください。①コンマ1秒過去に戻ることのできる能力。②コンマ1ミリ宙に浮く能力。③コンマ1グラムの物体をテ

        • ショートショート書いてみた②あなたの望む言葉

          これは昨年の藤崎研のゼミで僕が書いたショートショートです。 あなたが望む言葉 新緑が瑞々しい五月の午後、わたしは、この一年ずっと想いを寄せていた隣の部署の女性に告白した。会話も弾んだし、会社帰りに二人で食事をすることもあった。言葉遣いにも身だしなみにも細心の注意を払い、努力を重ねてきたつもりだったが、あっさりと振られた。生涯で何度目だろう、振られたの。 極度の無力感と虚脱感にさいなまれて、週末ずっとベッドから出ることなくスマホをいじっていたときに、ふとその宣伝文句に目がと

        身体と身体性

          雲星人──ショートショート書いてみた

          東京藝大デザイン科藤崎研では、昨年から大学院生にショートショートを書いてもらってます。ナラティブデザインを実践的に学ぶのにショートショートを書くのは非常に有効な手段だと考えています。 で、僕も書いています。教えるのでなく共に学ぶ。今朝書いたやつ紹介します。今年の前期ゼミのテーマは「星人」なんで、そのお題に合わせた作品です。 雲星人 雲と話した。性別はないと言っていたのだが、ここでは彼という代名詞を使うことにする。見た目は私たちがよく知っている雲である。白くて綿アメみたいで

          雲星人──ショートショート書いてみた

          これはアートではない、しかしそれはデザインでないと誰がいえる

          ふと目にした物体を見て、これってアートだよなと思うことがある。たとえば、工事ために道路を仕切るため高さ3メートルくらいの錆びた鉄の壁が設置されているのを見て、なんかリチャード・セラの作品のようだとか……。 しかし、私がそう思ったからといって、それがアートになることはない。 だが、もし、どこかの有名アーティストが「これはアートだ」と言い出して、それが他のアーティストや評論家やキュレーターたちに広まって、一部の影響力のある人たちがその視点を面白がりはじめると、それがアートにな

          これはアートではない、しかしそれはデザインでないと誰がいえる

          循環を考える──海の思考、土の思考

          山水郷チャンネルなどで地域活性化のキーパーソンたちのお話をうかがうと、ビジョンを描くことの大切さを身にしみて感じます。特にサーキュラーエコノミー(循環経済)のような仕組みをつくるには、ビジョンをわかりやすく絵に描いて、将来イメージをステークホルダー全員で共有するのが大切だと。 限定された範囲でのビジョンは絵に描きやすい。だから循環経済は小規模のほうが実現しやすく、その将来像を共有しやすい。それゆえ循環経済は都市より地方のほうが成立しやすい。 循環経済を有効に機能させていく

          循環を考える──海の思考、土の思考

          Playから始まる「やってみるPDCA」とは?

          面白いことが起こっている、面白い人が集っている、そういう面白い場づくりで成功している人たちの話を聞くと、おおかたコトの起こりは「やってみた」で始まる。先は見えないけど、とにかくプロジェクトを始めてみました、起業してみました、移住してみました、みんなが集える場をつくってみました……。 そうした場では、デザインだけする人はおらず、計画を立てる人、進行管理をする人も実践の現場に出て自分のカラダを動かして行動している。デザインする人も現場のプレイヤーにもなっているのだ。 先日訪れ

          Playから始まる「やってみるPDCA」とは?

          人類の分水嶺

          映画「MINAMATA」を観た。チッソの社長を演じた國村隼の演技が強く印象に残った。1971年の話である。その26年前は終戦の年だ。 2021年の今の26年前でいうと1995年、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が起きた年だ。58歳の私からすると、1995年は地続きのそんな遠くない過去である。 終戦を境に日本の国家および日本人の大きく価値観が変わった。地続きとは言えないが、しかし26年前のことはぬくもりや冷たさのような肌感覚をともなって生々しく記憶している。そしてその時に刷

          人類の分水嶺

          地域デザインの7つの要点

          1.地方同士がつながる 2.オープンな場をつくる 3.何でもやる 4.思いついたらやってみる 5.編集する 6.リフレーミングする 7.風景の価値を見出す 1.地方同士がつながる インターネットと高速交通網によって、都会と地方の物流格差・情報格差は格段に縮まった。時代の先を行く東京のデザイナーが地方の地場産業を指導するといった図式が弱まり、自分の住む地域で成功したデザイナーが、その成功例を聞きつけた別の地方の依頼者の仕事を受けるケースも増えてきた。 コロナ禍でみながオンラ

          地域デザインの7つの要点

          山水郷のデザイン展、開催します!

          【会期変更】緊急事態宣言発令のため4/25(日)〜5/11(火)の間、展覧会を中断し、会期を5/29(土)まで延長します。 _________________ 『山水郷のデザイン - 自立共生のためのナラティブ』を開催します。会場は丸の内仲通りにあるGOOD DESIGN Marunouchi 山水郷って聞き慣れない言葉ですよね。山水郷とは山水の恵み豊かな地域のこと。さんすいごうと読みます。実は、この言葉、私とともに本展ディレクターを務めた、井上岳一さんによる造語です。井上

          山水郷のデザイン展、開催します!

          石岡瑛子展を観て……

          石岡瑛子展@東京都現代美術館に行ってきました。キュレーションが素晴らしいです。 展示の最後に、石岡が高校の時に作った絵本があります。「えこの一代記」。えこと名づけた自分を主人公にして自分史が、切り絵風の色面を使ったイラストとタイプライターで印字された英語のテキストで描かれています。 戦争中は疎開して、東京に戻り女学校に行き、そして高校を卒業したら藝大に行く……ベン・シャーン風の筆致で描かれた素晴らしい先生と仲間たちに囲まれ、その後世界各国で活躍する。 しかし、現実は……

          石岡瑛子展を観て……

          モラルに生きること──小説『パチンコ』を読んで

          私は高校時代親元から離れ広島で過ごしたが、当時の広島は朝鮮人差別や部落差別が当たり前のようにあった。広島では全国最高レベルの平和教育が行われている。でも、被爆者手帳をもっている人が、なぜ4つ指を立てて同じ日本人を差別するのか、うちの娘は朝鮮人とは絶対結婚させんと言うのか。平和教育が浸透した街で、なぜあいつの名前は通名で本名は……なんて話になるのか。本当に意味が分からなかった。平和を言うなら差別やめろよ。でも、周りの話をうんうん頷いて聞いていた。同調は同意になる。そこで一人で生

          モラルに生きること──小説『パチンコ』を読んで

          「雑誌用取材原稿の書き方」改訂版

          人を取材して雑誌記事にする際に留意する点を128項目にまとめています。原稿の書き方だけでなく取材の仕方まで言及しています。私の経験をまとめたものですので、あくまでも私家版のノウハウ集です。主にデザイナー、アーティスト、クリエイター、建築家、職人、科学者、工学研究者への取材経験に基づいたものです。専門分野によってこれとは異なるノウハウもたくさんあるはずです。雑誌用取材原稿の書き方とありますが、ウェブ記事を書く際も役に立つことがあるでしょう。本記事は、10年前に自分のブログに投稿

          「雑誌用取材原稿の書き方」改訂版

          編集とはなんぞや? デザインとどう違う?

          昨晩の「山水郷チャンネル」第13回。事業プロデューサーの江副直樹さんをお迎えしました。江副さんは、さまざまな地域活性化の仕事をされていますが、その仕事の要にあるのが「編集」という話をお聞きして、私は編集者であることもあり、編集とはなんぞやというこを考えてみたくなりました。 江副さんの話で最も興味深いと思ったのは、高度経済成長期に地方にさまざまな工場が建てられ、そこでは分業や細分化が進んで、それぞれの地域にアパレルでも自動車産業などで働く、ものづくりのスペシャリストが生まれて

          編集とはなんぞや? デザインとどう違う?

          ダメな産学官プロジェクトの理由

          10年前東京藝術大学の教員になったときは、産学連携や産学官連携プロジェクトは積極的にやったほうがいいと思っていた。しかし今は、その考え方を改めている。 最先端テクノロジーなどの独自の技術開発や理論探究の研究を行っている研究室ならば、情報と資金を交換し合うなどしてWin-Winの関係が築けることは容易に想像がつく。しかしデザインや美術を学ぶの研究室は、基本的に学生のやりたいことが先にあって、研究室レベルで何か独自の技術を開発しているというケースは稀だと思う。特に藝大はそうであ

          ダメな産学官プロジェクトの理由