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毛虫のスケール

 近所の山にジョギングに出かけた。強風で木から落ちたのだろう。舗装された道路の真ん中を這いずり回っていた毛虫がいたので、クルマに轢かれたらかわいそうだと、道端の熊笹の葉を一枚とって、それに毛虫にくるむように掴み木に戻したところ、毛虫が話しかけてきた。
「ありがとうございます」
 コイツ、しゃべった……
「お礼に超能力を差し上げましょう」
 なんと…!?
「次のなかからお選びください。①コンマ1秒過去に戻ることのできる能力。②コンマ1ミリ宙に浮く能力。③コンマ1グラムの物体をテレポテーションする能力」
「どれも役に立たなそうだね」
「私たちの毛虫のスケールではものすごく役に立つのですが……」
「まあ、くれるというならもらっとくよ。子どもの頃タイムマシンに憧れたから①にしておく」
 家に帰って試したが、コンマ1秒なんて、戻っているのか、どうかもわからない。だまされたのか、本当に役に立たないのか。よくわからないまま、一度も使わないスマホのアプリのように、その能力のことはすっかり忘れていた。
 数年後、今日は朝にジョギングができなかったので夕刻山に出かけた。かなり薄暗くなってきた帰り道、道路の真ん中に毛虫が落ちていた。熊笹にくるんで毛虫を拾い上げる。ふとあの能力のことが頭をよぎり、使ってみた。クルマが高速で通り過ぎていった。毛虫に気を取られていてアスファルトに空いた大きなくぼみに今気づいた。……躓いていたのかも。

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