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エビス様像、祈願対象としての栄枯盛衰 ~モノの意味性の推移に関する考察~


シンボルとしてのオブジェクト。機能としては用途のないオブジェクトでありながらも、シンボルとしての意味性が付与されることによって、オブジェクトには人を引き付ける魅力が生じてくる。

そうした意味性は社会的状況や背景によって、大きく変化する。

今回の投稿では、その意味性の変化に関して、カクレキリシタンが住む島に建てられたエビス様を題材に、意味性の変化について述べていく。


島の背景

カクレキリシタン。彼らは信仰の自由が保障された明治時代以降も江戸時代の潜伏的な信仰形態を残していた人々のことだ。

長崎県のある島に江戸時代の社会的背景から、彼らが集い、生活を営んできた島がある。その島の無縁仏を祭る場所の一画にエビス様が建てられた。

このエビス様が豊漁祈願の対象としてまつられるようになる。

しかしながら、この豊漁祈願の対象としての意味合いも1980年ごろにはその意味合いも希薄になる。

こうした意味合いの変化には、この島における発展と社会体系の変化が影響しているようだ。

高度経済成長によって島は徐々に発展していくのだが、その発展に大きく貢献したのがその島の漁業協同体の株主だった。

水産業の発展と対外との招致活動などによって、彼らは島で強力なリーダーシップをとるようになる。島全体はそのリーダーシップをもとに島の発展へと尽力していった。

しかしながら、その強力なリーダーシップによって島を導く在り方も変化する。

離島振興法の対象として指定されたため、補助金の獲得が容易になった。そのため、島で一丸となり島の発展に尽力するということはなくなり、漁業共同経営も終わりを告げる。これにより、島内のリーダーシップの在り方は、強力なリーダーシップによる意思決定から、各部落の合意のもとで意思決定を行う自律性を尊重するリーダーシップへと変化した。

エビスの豊漁祈願の対象としてのシンボライズと、その意味性の推移はこうした社会背景によるものといえるかもしれない。


モノの意味性

モノに対する意味性の変化、その一つは社会的な背景が一つそれを発生させるトリガーとして発展しているのだろう。

エビス様というすでに確立されている”福の神”というイメージ、そこに実際に起きた経済的繁栄と一つの強力なリーダーシップの存在という社会体系がトリガーとなって、エビス像に祈願対象という意味性が発生のではないだろうか。

1つの単一のリーダーシップが島全体を発展に導くという体制はある種、共同意識を生じさせる。島の発展という一つの目標がうまれ、島全体がその目的遂行のために尽力する。エビス様という対象はその福の神というイメージと島の発展とのイメージと相まって、目標達成の活力として精神的に作用させる媒体となったのかもしれない。

祈願というある種信仰的な行為も、そうした媒体から生じさせられたとすれば、社会的状況とシンボル的な要素がトリガーとなり、習慣という行為は形成されると考える。

モノの意味性の根本には、社会体系や状況、確立したイメージを既にもつシンボルによって、意味性というのを生み出すことができるのではないだろうか?


意味性の変化をもたらした社会的状況

事実、このエビスの意味性も1980年代には希薄化する。

漁業共同経営が廃止され、島がある程度発展したときに、島社会の社会体系も変化する。共同経営の株主がとっていた強力なリーダーシップによる決定権は縮小し、各部落との合意によって島の決定を行うようになる。

それに伴い、エビス様への信仰対象の意識は薄れていった。

それは、島全体の発展という一つの目標が失われ、各部落の自由意思がもたらされるようになった。共同事業の象徴である漁業、それに繁栄をもたらすエビス様も協力体制という社会体系がなくなった際に徐々に信仰の対象としての意味合いも薄れていったのだろう。

島の各部落の意識が協力から自律へ、その意識の変化がエビス様という存在の意味性も変化させた。

そうした社会変化が、モノに対する意識を変えてしまうのだろう。


必要なものは何なのか

モノへの意識や意味合いも変化する。

シンボライズされたオブジェクト。

モノの意味性。

それらは社会的状況と強力に印象付けられたイメージとを合致させられ生じた、精神性への活力や安定をもたらす媒体といえるだろう。そしてその対象への意識は、社会的な状況の変化によって簡単に変化するといえるかもしれない。

現代における私たちが持つデバイスに対して、私たちは何を意識しているのか、どう認識しているのか。

移ろいやすいこの現代において、本当に必要なものは何なのか、そんな問いを意味性の変化は問いかけるかもしれない。



参考文献 「社会空間の人類学 マテリアリティー 主体 モダニティー」

P307~P328第12章 帰属の場を求めてー 人口流出の進む社会における空間像  高崎恵 


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