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ヤナギさんのこと。

ヤナギさんは、元は旦那さんの猫。
今は旦那さんの実家で世話をしてもらっている。
現在18歳(人間だったら90歳くらい?)の
アメリカンショートヘアとスコテッシュフォールドのミックス猫の女の子。

旦那さんが21歳くらいの時
たまたま知人の家で猫の出産に居合わせて、
その時に生まれた4匹のうちの1匹を譲り受け、
しばらくの間は東京のマンションで1人と1匹で暮らしていた。

その後、旦那さんの実家に一緒にUターンして、
お義父さんとお義母さんには「え?!猫なんて!」とかなんとか言われつつ、
まるで急に出来た小さい末娘のように
可愛がってもらっております。

私と結婚することになって、
新居を探すときの第一条件が
「ペット可(猫2匹までOK)」だったのだけど、地方の賃貸物件では通勤のことや利便性を合わせて考えずとも、
まずありえない金額か、ありえない環境かの両極端で、
ヤナギさんを実家に残す選択をしたのだった。

ヤナギさんは抱っこされるのが苦手で、人見知りも激しい。
ご飯はカリカリも食べるけれど1日2回の生ご飯(猫缶)が主食なお嬢様ネコだ。
冬の寒い夜も、布団の中に入ってこない。
布団の足元で丸くなるだけで、
どちらかというとツンデレのデレが薄めのタイプ。

私が知っているヤナギさんといえば、
抱っこしようとすると逃げるとか、
抱っこしても二本の前足を突っ張って『イヤなのよ!』と拒絶姿勢のイメージがあった。
それでも、座っている傍に行って撫でると、
『あら、撫でてくれるの?
では、もっとコチラの方も、
あと、コッチも撫でて欲しいのよ。』
と額を擦り付けてきて、
まんざらでもない態度が愛らしかった。

年齢的に落ち着いて、
動きのすばしっこさは少し無くなったが、
十分に猫々しいネコだった。

旦那さんの実家までは車で10数分ほどの距離だったので、
月に1〜2回はトイレの砂やご飯を買っていき、
爪を切ったりシャワーしたり、
予防接種のタイミングや具合がおかしいと言われれば病院に連れて行ったりと、
実家に預かっていただいている身として出来ることはやっていた。


昨年秋くらいから、お義母さんが
ヤナギさんの異変を口にするようになった。

しきりにご飯を要求するようになって、
食べたことを忘れてる様子が見えると。
夜も鳴き続けることがあったり、
抱っこをせがんだりするようになったり、
コレって、痴呆の症状じゃないの?と。

容姿は相変わらずの美猫さんですが、
かなりのお歳であることを忘れてはならない。

生ご飯も高齢猫用の汁気の多いパウチでないと食べづらそうにしていたし、
年々動きもトロくなってきていた。
利発なヤナギさんらしさに明らかに変化を感じた。

年が明けると、外見にも変化が見えてきた。
白い毛が多くなり、身体が小さくなってきたのだ。
以前は食事制限が必要な5頭身ネコだったのに、
気づけば普通の猫の大きさまで脂肪が落ちて
抱っこも軽く感じた。

念のために動物病院に連れて行き、
血液検査や検尿などもしてもらったけれど
特に異常はなかったので、
年齢による衰えと言われて帰った。

いつまでも居るように感じていたけど、
いつか来る日がそう遠くないのだと認めないといけない・・・。


桜が開花する頃から、粗相が多くて困るので
お義母さんからペットシーツを買って欲しいと言われた。

もともと、おしっこが下手で
トイレの入り口付近にしてしまうことが多かったが、
それとは違っていた。

ペットシーツを部屋中に敷き詰めても追いつかない。
そして、身体はみるみる小さくなって
背中の骨が露わになり始めた。

悲しい変化を目の当たりにして
お義母さんもお義父さんも
そろそろ心づもりをした方が良いね。と
寂しそうに笑っていた。

傍らで人間たちがそんな会話をしているのを
じっと聞いているかのようなヤナギさん。
お顔は相変わらず美人ちゃんで可愛さに変わりはないのが余計につらかった。

今週初め、ヤナギさんにオムツを買ってきてほしいとお義母さんから連絡があり、
ssサイズのオムツを装着。

もう、オムツを嫌がる元気もない。
足腰がすっかり弱って、後ろ足がハの字に広がってしまう。
お水や食事の時にうまく座れず滑って四つん這いになったり、
下手をすると転んでしまう。
それでも、まだまだ食欲が旺盛なので
大丈夫だねと笑うことができた。

オムツになるちょっと前から、
お義母さんからの『ヤナギさん日報』が
旦那さんの携帯メールに毎日届くようになっていた。

もう、看取りの連携ができている。

とうとうご飯を食べなくなったと連絡が来たのは、
オムツに切り替えて数日しか経っていない昨日のことだった。

今日はお昼に、お義母さんと旦那さんと私で
看取り会議になった。

ヤナギさんはお古のバスタオルの上に横になって、
目を開けたり閉じたりして、浅い呼吸をしている。
体温が下がっていて、手足や尻尾を触ってもあまり反応がないので、
ヤナギさんが眠りに落ちると心配になって、動くお腹を時々見て呼吸を確認してしまう。

最後くらい連れ帰って傍で見てあげて欲しいとお義母さんは言った。
私たちの住む借家はペット禁止だけれども、
もう動き回ることも鳴くこともできなくなったヤナギさんなら、
周囲に気づかれることなく最後まで過ごせるかもしれないと
私も考えたことがあった。

しかし、ヤナギさんは飼い主を
もう旦那さんではなくお義母さんと思っているはずで、
移動して環境を変えることや
お義母さんのいない場所に置くことが
ヤナギさんの本意ではないと旦那さんは断った。

私の本心としては、
ヤナギさんを連れて帰って少しでもそばにいたいと思った。
でも、それは私の一方的な思い、である。

ヤナギさんと話せたらとつくづく思った瞬間だ。

もう、今日か明日かという状態のヤナギさんを囲んで、
人間たちが出した答えは
ヤナギさんの環境を変えずに、
今夜は旦那さんが実家に泊まり込んで
ヤナギさんに付き添うということになった。

生まれた時に立ち会ったのだから、
本当は最後もそばにいてあげたい。

でも、それはタイミングで叶わないかもしれない。
ならば、今夜だけでも見ててあげたい。


一旦家に帰って、看取りの次の話をした。
見送りをどう行うか、だ。

夫婦でそれぞれ検索を始める。
ペット_火葬…検索。

お骨は拾わない。
でも、火葬されるまでは充分なことをしてあげよう。

旦那さんの家族も、私も、
ペットを飼ったことがあるのに
看取りも見送りもしたことがなかった。

猫はいつのまにかいなくなって、
そのまんま…というパターン。

最近、テレビの石田さんチで
ワンちゃんが亡くなった時の火葬の様子を見て
個別対応があることも知ったけれど、
地元でできる選択肢と自分たちの意向をまとめていかないといけない。


ひと眠りした後、
食事と入浴を済ませると直で出勤できる荷物をまとめて
旦那さんは実家に向かった。

まだ私と結婚する前、
旦那さんの車の音が聞こえると玄関に走っていき
旦那さんの姿が見えるのをニャーニャー言いながら待っていたというヤナギさん。

今夜だけは、思い出してくれるといいなぁ。


#猫 #猫の看取り #エッセイ #日記

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