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スタッフ定着率の高いお店がやっている『一本釣り』とは?

今年も一本釣りの季節がやってきた。

断っておくが、私はカツオ漁師ではない。珈琲屋だ。
では、「一本釣りとはなんのこと?」と思われたことだろう。
これはスタッフ採用の話である。

スタッフ採用といえば大げさに聞こえてしまうが、ようはアルバイト募集のことで、『一本釣り』とはその方法のことである。

当店はスタッフの定着率は高い方だと思う。
学生のアルバイトでも卒業するまで数年間続けてくれる。

しかし、卒業や生活環境の変化により、この時期に退職する人が出るときがある。

そこで新たなスタッフを探すことになるのだが、主にコーヒーを飲みにきている人に「うちで働きませんか?」と、こちらから声をかけることを『一本釣り』と呼んでいる。

この手法はお客さんとの距離が比較的近いお店では見かける方法で、お店にあった良い人に長く続けてもらうにはうってつけだ。

まあ、コーヒーを楽しみにきている側からすればいい迷惑だろう。

しかし、この採用方法は双方にとってメリットが多い。
現在7人いるスタッフのうち、4人はこの方法で採用した人だし、実際に長く働いてくれているのだ。

働いているスタッフからは「ワシら魚やあらへんで!」と怒られそうだが、なぜだか昔からそのように呼ばれている。

では、双方にとってどういったメリットがるのか?

まず、働く側のメリットとしは、珈琲屋にきているので当然ながらコーヒーが好きだろう。
コーヒーやカフェといった自分の好きなものを仕事にできるのは、誰しも願望としてあるのではないだろうか?
特に何度も来てくれている人は、お店そのものをリスペクトしてくれているので、自分もそこで働くということに価値を感じてくれるはずだ。

お店側のメリットとしては「この人と一緒に働きたい」と思う人を選ぶことができる。
経験上、この時のポイントは「この人は仕事ができそうだな」という視点で選ばないことである。

私の偏見による選ぶときの考えは下記のようになっている。

仕事ができそうだ → 経済性重視
楽しく仕事ができそうだ → 社会性重視

この人に入ってもらえれば、しっかり働いてくれて売上が上がったり、自分の仕事が軽減できるかもとスケべ心を出すと、なぜかうまくいかない。

正直、仕事ができるかどうかは働いてみないとわからない。
強気なことを言う人でも大した仕事をしない人は過去にもいた。
結局のところ、釣り上げてみないとわからないのである。

それに比べて、話している人間性からこの人はいい人だなというのは採用後も外れることはない。
決していい人だから仕事ができるというわけではないが、許容できてしまうところはあるのである。

つまり仕事は収益をあげる手段と考えるのではなく、1日のうち最も多く過ごす時間で考えると、楽しく仕事できる人といたほうがトータルでメリットが多いのだ。

では、具体的にはどのように声をかけているのか?

静かにコーヒーを飲んでいる人に対して、「うちで働きませんか?」などと言ったら、白い目で見られるのがオチだろう。
土台として当店では日常的にお客さんとお話しする文化がある。
もちろん様子を伺いながらなので、何かに集中している人にはそっとしているが、コーヒーに興味がありそうな人には積極的にお声がけして話をする。

話が発展してくると、「バイトを探してます」とか「カフェに興味があります」といった話が出ることがある。

そうすればチャンスだ!

私は一気に竿を引き、しっかりと針を掛けるように「うちで働かない?」と尋ねるのだ。
ここで相手の反応が好印象であれば、ホッと胸をなでおろすところだが、やはり上手くいかないこともある・・・。

しかし近年、この方法でスタッフを見つけるのが困難になりつつある。
特にコロナ禍以降はどこも働き手を見つけられずに苦労しているようだ。
コロナで飲食サービスの脆さが露呈したうえ、他にコスパのいいアルバイトはいくらでも見つけられるようになった。
昔は「学生時代に接客業を経験しておくと、社会に出てから役に立つ」なんていわれたが、今や社会に出てから人と関わらずにすむ仕事も増えている。

それでも私は接客業はおもしろく、価値のある仕事だと思っている。
うちのような小規模店では家族的な雰囲気があるし、お客さんから顔や名前を覚えてもらうのは嬉しいはずだ。
特に自分の淹れたコーヒーに対して初めてお代を頂くときは、喜びと不安の入り混じった複雑な感覚を受けるだろう。

さあ、今日は凪(なぎ)だろうか、時化(しけ)だろうか!?

私は獲物を狙う目でカウンターに立つのであった。

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