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退廃したイラン?変わらないイラン?...映画「クリティカル・ゾーン」

東京フィルメックスがいよいよ開幕。まず、イラン映画「クリティカル・ゾーン」をみた。
革命による政体転換から40数年。イスラム国家イランの現実を凝った映像で表現する。メガロポリスの首都テヘランを車で縦横に走り回って取り引きする麻薬の売人と、彼と関わる人々を通じて。

作品に登場するさまざまな人物、たとえば、麻薬密輸に手を貸すキャビン・アテンダントなど、さすがに、登場人物たちは誇張されすぎだろう、という声もあるかも知れない。実際はどうなのだろう。

私自身、イランに何年か住んだことはあるが、かなり前のこと。現在のイランの描き方として、大げさなのかどうかは正直、分からない。

ただ、麻薬の社会への浸透については、イランは昔からかなりのものだったんじゃないか、という印象はある。イラン革命から10年ちょっとという時代に、イランを旅行した時、どこの街だったか覚えていないが、ヤクでラリって千鳥足の男性を街頭で見かけたことがあったからだ。タバコのマールボロ(偽造品だろう)になんらかの麻薬物質が仕込まれていたようだった。

厳格で規律的なイスラム国家というイメージを抱いて、初めてイランを旅した時の驚きと衝撃を構成するひとつの思い出だ。

ひょっとするとイラン社会は、今も昔もそれほど変わっていないのかも知れない。

イランのイスラム体制を批判のアングルで表現する映画の日本での公開は、このところ確実に増えている。イラン人が海外で制作したものもあるが、この作品は驚くべきことに、国内で作られたもののようだ。その基底には、イラン国内の若者世代の鬱屈の蓄積があるのだろうか。ただし、この映画は、声高に体制を批判するスタイルではない。イラン社会の闇の部分にある病弊や、覆い隠されていた影の部分に、眩いばかりの光を淡々と照射してみせた作品だといえるかも知れない。


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