見出し画像

おそ夏の夕暮れ 〜過去日記 2015

犬とハモニカを読む
小説に呼ばれた気がした
まさに今の季節を描いた作品群だった
そのなかの
おそ夏のゆうぐれを読んでいたら
子供の頃 父と継母が暮らしていたアパートへ遊びに行っていた記憶が不意に甦った

当時 再婚したばかりの両親は
すぐに同居するのは抵抗があるらしかった継母の意向で実家の近くの市ににアパートを借りて
二人暮らしをしていた

そこには歳はいっている二人とはいえ
祖父母と暮らす実家にはない新婚らしい
甘やかな生活感があった
顔に似合わずロマンチストの父は二人の
新生活には小鳥を飼うのだと
兼ねてから語っており南側の窓際には鳥かごが置かれていた

1DKのそのアパートはちゃんと新婚さんの
匂いがした
子供心にその場所へ行く度に ちょっとした
高揚感を覚えたものだった

もしかしたら 自分もそのうち このアパートで暮らすことになるのかも知れないというよりは
新しく母となった人や自分の知らない暮らしの匂いのする町へ訪れることが
遠足のようで楽しかった

何回かアパートへ通ううちに
近くに公園がある事を知った
夕暮れ ひとりでその公園に遊びに行くと
回転型のジャングルジムに自分と同じ歳くらいの女の子が やはりひとりで遊んでいた
その子と友達になりたいと思ったけど
うまく話しかけられず
ただ回してあげると言ってジャングルジムを
ぐるぐる回した
回しているうちに自分もぐるぐると
その周りを回った
夕日もぐるぐる回った

段々と公園は薄闇に包まれてゆく
その女の子は口をぎゅっと結んだまま
なんにも言ってくれない
ただ回されるがままになっている
辺りはもう暗くなってきて なんにも言わない女の子に段々腹が立ってきた
今度は回してあげる
そんなふうに言ってくれるのを
勝手に期待していた


知らない公園や知らない町
すべてが自分を拒絶しているように感じた
ジャングルジムを回すのをやめた
女の子は走って逃げて行った
あたしがそのアパートで暮らす日も訪れる事は無かった



* * 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?